NITSニュース第79号 平成31年2月22日

いじめ問題に関する保護者との連携、信頼構築関係の在り方

公益社団法人日本社会福祉士会 アドバイザー 愛沢隆一

日本社会福祉士会の愛沢隆一と申します。「いじめの問題に関する指導者養成研修」で「いじめ問題に関する保護者との連携、信頼構築関係の在り方」の講義をさせていただきました。またこの度、オンライン研修「校内研修シリーズ」も担当させていただきました。

なぜ、社会福祉士の私がいじめに関する講義を担当するのか疑問に感じる先生もいらっしゃると思います。私は、児童相談所の児童福祉司として児童虐待対応相談の仕事をしてきました。最近、児童相談所が関わりながら子どもを救えなかった事件の報道が続いています。児童虐待対応では、子どもの命を守ることが最優先で迅速な対応が必要です。時に保護者と対立しても子どもを保護すべき時もあり毅然とした対応が必要です。子どもの命と安全を守れなかったことは、職員不足と多忙が背景にあったとしても、言い訳のしようがない重い責任を感じています。

一方、報道されることはありませんが、深刻な対立状態から始まった相談関係でも、丁寧に保護者と子どもの気持ちに寄り添い、信頼関係を構築して親子の生活を再建し支援できるようになった事例も少なくありません。

以前に、文部科学省の「いじめ防止等に関する普及啓発協議会事例検討会」に出席させていただく機会がありました。いじめ対応をめぐって保護者との関係が難しくなってしまうことも多いとお聞きしました。その中で、児童福祉司が保護者との信頼関係構築を目指して相談をすすめる際の留意点についてお話しさせていただきました。これがご縁となり、講義を担当させていただいています。

いじめはどの学校でもどのクラスでも起こる可能性があります。子どもにとって安全で楽しい場所であるはずの学校で、我が子がいじめられていたと知った保護者の混乱や心配は計り知れません。学校に怒りの気持ちがわくのも当然です。講義では、保護者との信頼関係の構築を目標とした初期対応と、いじめに気づいた段階で保護者と面接を進める際の留意点を中心に話を進めています。その後に、模擬面接を行う演習の時間を長くとらせていただいています。オンライン研修では、面接上の留意点に絞ってお話しさせていただきました。

信頼関係構築の前提は、子ども一人一人の権利を守るために、学校が真剣に取り組む姿勢を持つことと、それを子どもと保護者に丁寧に伝えることができることです。不安や怒りを真摯に受け止めて、学校と保護者が協力できる入り口をつくっていくことが必要です。初期対応でつまずくと、力を合わせるべき学校と保護者が対立関係になってしまいます。講義では、そうならぬように気を付けるべきポイントを上げさせていただいています。

もちろん、講義を聞けば面接がうまく進められるわけもありませんので、事例を使った模擬面接を行う時間を長めに設定させていただいています。

重要なのは、面接を上手に進めることではありません。保護者の置かれている状況や不安や怒りといった心情を丁寧に聴かせていただくことで、保護者の気持ちに変化が生まれてくることに気付いていただくことです。不安や不信でいっぱいの場合も多い中、初期対応で学校に対する保護者の印象は大きく変わってきます。相手の立場にたって考える姿勢を持ち、かける言葉や面接の準備に心を配れば結果は大きく変わってきます。
演習を体験していただいた先生方からは、「保護者の思いを真摯に受け止めて、心情を十分推察して共有してから面接に臨むことの大切さを感じた。保護者役は、担任と学校に敵対心を持っていたが、親身に丁寧に対応することで気持ちに変化が起きることを実感した。」と言った感想を寄せていただいています。

もちろん、模擬面接には限界があります。上手に面接ができるようになる訳ではないと思います。しかし、先生方が保護者との面接を丁寧に進めるために、配慮と準備が必要だとご理解いただければありがたいと思います。オンライン「校内研修シリーズ」をご覧いただく方には、事例を想定して、保護者のお気持ちを推察して、模擬面接をしてみていただけるとありがたいと考えています。実際と同様ではありませんが、感じる経験をすることに大きな意味があると思います。