NITSニュース第78号 平成31年2月15日

命を守る学校であるために~不完全さに備える~

富谷市教育委員会生涯学習課(南三陸町立戸倉小学校 元校長) 麻生川敦

命を守るために、学校の防災計画では自然災害の想定を行い、適切な対応策を考えておくことが必要です。そして、現状ではその完成度100%が求められているといってよいでしょう。しかし現実には、そこに大きな問題があると考えます。

問題の1つは、残念ながら私たちが自然について全てを理解していない事です。これまで、災害の分析から様々な知見が得られるようになりましたが、過去の事例は特定の条件下のものであり、将来の災害に対する合理性は未だに不透明な部分があります。

東日本大震災でも、これまでの被災経験が防災教育によって生かされ、いち早く高台避難を行ったり、中学生が避難誘導や人命救助で活躍したりするなど多くの成果があった一方で、チリ地震津波で安全であった地域に住む人が、「安全である」と思い込み、避難せずに命を落としたケースが報告されています。

このようなことから、どれだけ完璧を期して想定を行ったとしても、その想定の完成度は75%程度であると考えておくべきだと思います。

不完全な部分の20%は想定を1つに決めてはいけない現状がある場合です。戸倉小学校は海のすぐそばに建ち、高台までの避難に少なくとも10分を要することがわかっていました。一方、津波被害のシミュレーションでは、地震発生後、最短5分で津波が襲う可能性があることも判明していました。
このことだけを考えれば、高台避難は否定され、安全なのは屋上避難しかなくなります。しかし、津波の大きさから考えるとどうでしょうか。高台は陸続きで内陸部への2度逃げが可能ですが、屋上はもう逃げ場がありません。

このように、複数のリスクが混在する状況下では避難場所を1つに決めることは危険です。避難方法も複数にし、選択の余地を残す必要があります。経験則や単にわかりやすいからといって1つにしてしまうことは避けるべきであると考えます。

残る5%は、完璧と思われる想定をしていても、全く考えてもいない事態が起こる可能性を否定できないことです。防災の専門家ですら、今回の津波到達高は予想できませんでした。想定外の災害は起こりうるのです。しかし、想定外の事態には前もって備えることはできません。「想定外も起こりうる」と覚悟を決め、その時には想定にとらわれず、臨機応変の行動をとるしかないことを常に心においておくことが必要です。

各学校の防災計画は何度も実践されチェックされていると思います。しかし、その前提となる想定についての見直しはどうでしょうか。毎年チェックする人を入れ替えたり、地域の方を巻き込んだりしながら、新しい視点で多面的に検討することが大切であると考えます。もしかすると、子どもの引き渡しについては、災害ごと、地区ごとに異なる対応も決めておく必要が出てくるかもしれません。

このように学校の防災計画において想定が100%でない部分は、ぜひ地域と共有しておきたいことです。子どもたちの命を預かる学校として、そのリスクを伝えることは勇気のいることかと思いますが、命を預かるからこそ、それに関わる事実はそのままの形で共有した上で、リスクへの対応策を協働でつくりあげていく必要があると考えます。

想定とは別の問題は、災害時の適切な対応力も完璧ではないということです。私たちは災害時に適切に対応できる力を伸ばしていく必要がありますが、それは、自然や防災の知識だけではいけません。むしろ、人としての力…、五感の鋭敏さや主体性、環境への興味・関心、判断力や行動力、そして何より人とつながる力こそが必要であると実感しています。

以前このような力は、学校でも、地域でも、家庭でも、当たり前のように大切に育てられてきました。しかし近年、社会環境の激変の中で、意図的に育成することが必要となってきました。ですから、この育成は防災の分野だけの問題ではなく、学校教育全般や地域づくり、子育て支援などの各分野で日常的に取り組むべき問題なのだと思います。

私は防災という面から、「危機感の継続」「臨機応変の力」「人とつながる力」をあげましたが、子どもたちばかりでなく、その支援者たる大人の力も育てていく視点をもち、行政や地域、専門家と連携・協働して、日々の取組を積み上げ、人間力をあげていくことが、なによりも防災力につながると信じています。

そして、そのことが結果的には教員の働き方改革にもつながっていくと考えています。