NITSニュース第77号 平成31年2月8日

ICTを活用した授業づくり

東京学芸大学 准教授 高橋純

教室におけるICT環境は、地域差が大きい状況です。公費ですべての児童生徒の人数分のタブレットPCを整備できている地域から、教室に大型テレビすらない地域まであります。当然、環境がなければ授業でICTを活用する事ができません。したがって、地域や学校の実情に応じて、段階的にICTを活用していくことになります。

まず教員がICTを活用して学習指導する

教員が教科書や教具等を大型提示装置(プロジェクタなど)に大きく提示しながら、学習指導する。これにより、口頭で説明するだけよりも、大きく映した写真や図を用いながら、分かりやすい説明や指示が行えるようになります。そして、それらが繰り返されることで、分かりやすい授業になり、学力向上にも寄与します。口頭だけでは理解がしにくい児童生徒にも有効ですし、先生にとっては児童生徒の視線が集中しやすくなるだけでも、嬉しくなるICT活用です。

何を今さらというICT活用です。しかし、平成30年3月における文科省の調査結果によれば、普通教室へのデジタルテレビの整備率は47.5%、電子黒板の整備率は14.7%です。まだまだ日常的に活用できない地域も多いのではないでしょうか。数あるICT活用の中で、最もコストがかからず(といっても簡単ではないことは整備率が物語っていますが)、効果が明確なICT活用です。将来、普通教室でタブレットPCを活用する際にも基盤となるICT活用になります。

児童生徒のICT活用を段階的に進めていく

華やかな報道を聞くこともあるのが児童生徒によるICT活用です。しかし、報道されるようなICT活用は、珍しいからだったり、先進的だったりすることが多いです。最終的には報道されないような当たり前のICT活用を、各地で地道に進めていくことが重要になります。

1) 学習の基盤となる「情報活用能力」育成の充実を

新学習指導要領では情報活用能力が学習の基盤として位置づけられました。各学校段階・各教科等の学習活動を通じて体系的に育成する重要性がますます高まっています。詳しいカリキュラム案等は、文部科学省の「次世代の教育情報化推進事業」をご覧いただければと思います。

情報活用能力は、問題解決・探究における情報活用、プログラミング、情報モラル・セキュリティなど、幅広い資質・能力です。一方で、我が国の児童生徒は、ICT操作等の基本的なスキルにも不足しており、深刻な状況です。例えば、PISA2015において読解力の平均得点は有意に低下しましたが、これはPC使用型のテストへの移行が原因としてあげられています。もはや、人間の能力はICTスキル込みで測定される時代です。すぐにでも既存のコンピュータ室で指導できるICTスキルの習得から進めていく必要があるでしょう。

2) 主体的・対話的で深い学びの実現に向けて

主体的・対話的で深い学びの一層の充実に向けて、児童生徒1人1台PCの活用が期待されています。探究であったり、問題解決であったり、そういった学習活動において児童生徒が、PCを道具として活用します。基本は、社会人の日常的な仕事の際と似たPCの使い方です。

こうした実践の前提として、まずICT環境整備が重要となります。しかし、学校に1セット(40台)程度のPCでは、なかなか充実した実践になりません。文科省の指針では3クラスに1クラス分です。効果的に実施されている実践では、半固定にするなど擬似的であっても真の1人1台PCに近い環境づくりを工夫しています。次に、先に述べた児童生徒の情報活用能力の育成が欠かせません。事前に道具としてICTを活用できるように指導しておく必要があります。

実践の最も大事なポイントは、児童生徒全員の頭がフル回転しているかだと思っています。全員の頭から汗が噴き出るくらいPCを活用しながら学習をしているかです。教員自身がICT操作に頭フル回転で、それを児童生徒が見つめながら待っているのでは本末転倒です。教科、校種に関係なく、基本となる考え方だと思っています。