NITSニュース第74号 平成31年1月18日

学校の未来予想図をどう描くか

国士舘大学体育学部こどもスポーツ教育学科 教授 北神正行

今、学校を取り巻く環境は大きく変化しようとしています。グローバル化は我々の社会に多様性をもたらし、また、急速な情報化や技術革新は人間生活を質的にも変化させつつあります。こうした社会的変化の影響は、身近な生活も含め社会のあらゆる領域に及んでおり、子どもたちの成長を支える学校教育の在り方も、新たな事態に直面しているといえます。

次期学習指導要領では、このような認識のもと「予測困難な時代に、一人一人が未来の創り手となる」教育を目指し、「社会に開かれた教育課程」という新たな理念のもとでの教育の実現を目指しています。あわせて、「チームとしての学校」や「地域とともにある学校」といった新たな学校像が、その実現を図る仕組みとして提案もされています。

各学校には、こうした現代教育改革の全体像を的確に捉えながら、自校の課題解決とさらなる充実・発展に向けた取り組みの青写真(グランドデザイン)を描いていくことが求められているといえます。その鍵を握るのが、学校のビジョンと戦略です。

学校のビジョンとは、数年先の我が校が目指す姿を描いたものです。ある時点(3~5年後)までにこうなっていたいという望ましい教育や組織の将来像を示したものです。そのポイントは、それが学校関係者の間で「共有」されたものであるという点です。どんなに優れたビジョンでも、関係者の理解と納得を得たものでなければ、すなわち「共有」されたものでなければ絵に書いた餅になってしまいます。ビジョンを実現するのは、学校に関わる一人一人の考えと行動に依っているからです。そのため、ビジョンの作成プロセスでの関係者の参画が欠かせません。

また、戦略とは学校のビジョンを達成するために設定された目標を具体的に実践するための行動計画です。ビジョンの達成に向けて、何を、どのような方法・組織で、いつまでに取り組むのか、そのための経営資源をいかに調達・活用するのか、そしてその取り組みの評価指標はどのようなものを設定していくのかといった具体的な内容で組み立てられるものです。こうした学校のビジョンと戦略があってはじめて学校は期待される教育活動を展開することができるといえます。

このようなビジョンと戦略に基づく学校づくりを展開していくためには、学校を組織として機能させ、その力(組織力)を向上させていくマネジメントが必要となります。これまでの個人の努力と頑張りで支えられてきた学校から、組織として取り組む体制とそのマネジメントをいかに稼働させるかがポイントとなります。それは、「個の集合体」であった学校から「協働による組織体」としての学校に変換させるマネジメントだといえます。

そのためには、「変える」「見つける」「つなぐ」という3つの視点で学校のマネジメントを捉え直し、新たな学校づくりに向けた戦略を描いていくことが必要となります。

第1の「変える」とは、学校も社会的組織の一つであり、環境変化に柔軟に対応しながら生き残っていく組織体であるという認識のもと、現状維持的経営から脱却していくことを促すマネジメントです。そこでは、学校を構成する一人一人の教職員が変わる主体であるとの意識と行動をもって取り組むことが必要であると同時に、「何故、変わる必要があるのか」について共通認識を確立していくことが必要となります。それによって、学校を変える主体とすることができるのです。

第2の「見つける」とは、学校が主体的に変わっていくための手掛かりを見い出し、「どう変わるのか」を描くマネジメントです。その際、どの学校にもその学校ならではの「強み」と「弱み」がありますが、特に「強み」に着目して、それを生かす方法を見つけることが重要となります。また、そうした取り組みを進めていくためには、「資源」が必要となることから、学校の有する「資源」を見つけ出し、それらを活用・開発するという視点で具体的なマネジメントを展開していくことが必要となります。

第3の「つなぐ」とは、一つ一つの資源では限界のある取り組みでも、資源と資源を「つなぐ」ことによって相乗効果を発揮できるマネジメントの展開です。そこでは「人」と「人」をつなぐだけでなく、「学校」と「地域」をつなぐという組織的つながりも視野に入れたマネジメントが求められることになります。「チームとしての学校」や「地域とともにある学校」もそうした「つなぐ」マネジメントによって具体化され、効果が発揮できるものでもあります。

こうした学校マネジメントの稼働により、学校の現状分析から出発する学校の未来予想図が具体的に描かれることになるわけです。今、学校は教育改革という大海に船出をしようとしているところです。その中で、学校のビジョンは、教育改革という航海に乗り出す船の羅針盤の役割を果たすものであります。その意味では、ビジョンなき学校経営は、実現をめざす方向や姿(針路)を持たずに航海に乗り出す危険きわまりない行為だといえます。学校の未来予想図を学校関係者とともに協議・熟議しながら描き、その針路のもとで子どもたちに確かな未来を届けることが学校に求められているのではないでしょうか。