NITSニュース第67号 平成30年11月16日

カネを理解する者が学校マネジメントを制す

日本大学 教授 末冨芳

いま3万円あれば何をしますか?もちろんプライベートではなく、学校として、です。

3万円しかないのに何ができる、と思う方と、3万円もあればこれができるな、と思う方、学校マネジメントを効果的に展開できるのは当然「3万円もあれば」という発想をもつスクールリーダーですね。教職員支援機構の事務長級研修(義務・高校)でも、学校予算・財務をマネジメントにどう活かすか、という研修を行っています。

過去に私が出会ったカネに強い校長先生たちは、少ない予算でも実に効果的に学校づくりにつなげておられました。厳しい家庭の多い地域の小学校では、教室机の買い替えではなく、机の天板だけを買って、建築業のお父さんや日曜大工が得意な保護者たちとともに、机の天板を保護者が取り換える作業をしました。子どもたちも新しい天板の机を運んだり、拭いたり手伝いました。そうして新しくなった机には、落書きも、コンパスでの彫刻もなくなったそうです。この校長先生は「もし私に10万円もらえれば色々できる」と目を輝かせておっしゃっていました。

しかし実際には「お金は苦手なんです」という校長・副校長・教頭の実に多いこと。過去に学校予算の調査にご協力いただいた学校で、新任の教頭先生がお金のことがわからないんです、と早々に逃げ出されたことがありました(実話です)。

確かに自治体ごとに異なる学校予算の配当や執行のルール、小額購入でも備品扱いをされ、モノを買うのも大変、といった非効率な地方自治体の予算制度は、スクールリーダーにとって悩みの種です。だからこそ、学校事務職員は、その仕組みをなるべくわかりやすく校長・副校長・教頭に伝え、理解していただくことも職務だとお考えください。
また少しでも良いので「学校の自由になる予算」を確保し、学校の教育活動に活かすことも重要です。共同学校事務室や共同実施組織がある地域も多くなりました、校長会・教頭会と連携しながら、自治体の学校予算に対するルール事態を改善していくことも重要です。

カネを活用していく際に、校長・副校長(教頭)・学校事務職員のそれぞれがリーダーシップを発揮することです。校長は子どもたちのための教育活動の「ビジョンを示し」、副校長(教頭)は教員集団との協働から「ビジョンのために何を優先して購入すべきか」を考えます、そして学校事務職員は「予算はビジョンの実現の手段」ということを職員会議や経営会議で日ごろから発信し、また「この学校にはいくら予算があるのか」ということを特に校長・副校長と共有し、使途をともに検討します。
このようにそれぞれの職がリーダーシップを発揮できると、予算・財務が学校マネジメントを活性化させていくことができます。私の調査では、校長先生、教頭先生と学校事務職員がバラバラの予算額を回答する学校のほうが多く、逆に一致している学校ではそれぞれの職がリーダーシップをうまく発揮できるマネジメント組織(予算委員会を兼ねた経営会議等)が機能していました。

カネの分析をすると、学校の中で停滞している領域があることも把握できます。予算使途は自治体の執行費目でしか把握しておられないと思いますが、教科や特別活動などでいくら使っているかの活動別予算分析を学校事務職員にはおすすめしています。
たとえば何年もある教科(とくに社会や算数・数学)で予算が執行されていないケースがあります。これを「0円教科」と呼んでいますが、アクティブラーニングの時代にそれで本当に大丈夫でしょうか?教員のポケットマネーで様々なものを買ってしまっていたり、学校徴収金で多くの教材を買わせていたり、あるいは教科活動が停滞している可能性も要因として考えられます。教科間の配分の偏りも、何年にもわたって継続するようでしたら、ルールの見直しもしていく必要があります。
学校事務職員や副校長(教頭)が、「先生、来年度は3万円使って少し新しいことをしてみませんか」などの声かけも、もしかしたら教員を動かすきっかけになるかもしれません。徴収金分析も同じようにすることで、少しでも家計負担を軽減いただくことも可能であることも強調しておきます。

予算(カネ)と向き合うことで、教職員間のつながりをつくり、学校マネジメントを活性化することができる、学校予算・財務の専門家としてそれは確信していることです。
みなさま方のお取組みを期待しております。