NITSニュース第66号 平成30年11月9日

幼小をつなぐ『10の姿』

國學院大學 教授 神長美津子

皆様、こんにちは。お久しぶりです。幼稚園教育要領と幼保連携型認定こども園教育・保育要領改訂、並びに保育所保育指針改定(以下「幼稚園教育要領等の改訂」と表記)の実施の年に当たり、それぞれのお立場でお忙しい日々をお過ごしのことと思います。今回は、ポイントの一つである「幼児期に終わりまでに育ってほしい姿」について、研修の場でどのように活用していくかに焦点を当てて解説します。

学びの成果を小学校と共有するために

今回の幼稚園教育要領等の改訂では、幼児教育で育みたい資質・能力として、「知識・技能の基礎」、「思考力・判断力・表現力等の基礎」、「学びに向かう力、人間性等」の三つを明確化し、幼稚園教育要領等の5領域(「健康」、「人間関係」、「環境」、「言葉」、「表現」)を踏まえて、遊びを通しての総合的な指導により一体的に育むことを確認いたしました。その上で、幼児期の終わりまでに育ってほしい具体的な姿として、「健康な心と体」「自立心」「協同性」「道徳性・規範意識の芽生え」「社会生活との関わり」「思考力の芽生え」「自然との関わり・生命尊重」「数量・図形、文字等への関心・感覚」「言葉による伝え合い」「豊かな感性と表現」の10項目(以下、「10の姿」として表記)で示し、幼児教育の学びの成果が小学校と共有されるよう工夫・改善がなされています。

ご存知のように幼児教育(幼稚園、幼保連携型認定こども園、保育所で行われる幼児教育)は、子どもたちの遊びや生活を基にした経験カリキュラムであり、小学校教育は教科等の学習を中心とする教科カリキュラムを中心としています。このため、幼児教育から小学校教育に移行する際、教育課程の構成原理、並びに指導計画の考え方が異なるため、その指導には「段差」が生じていて、幼児教育から小学校教育を見通すことができない、あるいはその成果が小学校教育に十分に伝わっていないのではないかと指摘されてきました。

確かに、幼児教育では子どもたちの生活や経験を重視し、小学校教育では、教科で学ぶことを中心に考えているので、その指導の進め方は変化していきます。しかし、育みたい資質・能力は共通であり、特に幼児教育から小学校低学年にかけては、義務教育及びその後の教育の基盤となる「学びの基礎力」をつけていくことは重要な時期であることを踏まえると、子どもたちの育ちの姿、あるいは学びの姿を共有しながら、指導を工夫していくことが必要です。こうした考え方を基にして、「10の姿」が示されました。

つまり、幼児教育と小学校教育で、子どもたちの学びの姿を共有するために「10の姿」があります。今後、研修等で、どのように活用していくかが、幼児教育と小学校教育とのカリキュラムの円滑な接続を考える上で重要なのです。

各園において、幼児期の終わりの育ちの姿を確認しよう

先ずは、各園で「10の姿」のそれぞれの項目について、我が園では、特に5歳児後半にどのような子どもの姿が見られるか確認しておきましょう。たとえば、「健康な心と体」については、幼稚園教育要領では「幼稚園生活の中で、充実感をもって、自分のやりたいことに向かって心と体を十分に働かせ、見通しをもって行動し、自ら健康で安全な生活をつくり出すようになる。」(下線は筆者が引く)と示されています。

特に「見通しをもって行動する」は、5歳児の終わりの姿を意識した表現ではないでしょうか。これは、言い換えれば、「健康や安全」に関わっては、「見通しをもって行動する」姿が見られるようになってきているということを表しています。

たとえば、3年保育のある幼稚園では、以下の姿を報告しています。(5歳児11月)

育ちの背景にある環境の構成や教師の関わりも伝えていこう

このような発達の姿を小学校教員に伝える際に確認しておきたいことは、どのような環境の下でこのような子どもの育ちの姿が見られるか、この育ちの背景にある教師の関わりです。また、小学校ではどのような指導が必要だろうか予測してみることも必要です。その際、園環境と小学校の環境、教師・保育者のかかわりの違いは確認しておきましょう。

さいごに

各学校園、各地域で「10の姿」を中心にして、子どもの育ちや指導について、活発に話し合われることを期待しています。