NITSニュース第65号 平成30年11月2日

指標に基づく研修計画策定の意義

教職員支援機構次世代教育推進センター長・上席フェロー 大杉昭英

20代の頃、高等学校で教えていたことがあります。その学校では新学期が始まると地域にある標高500メートルほどの山に登る行事がありました。担任していたクラスの生徒を引率するのですが、登り始めて息が切れてくると「先生、頂上まであとどのくらい?」と聞いてきます。「あと10分で5合目だ」「今、8合目に来たから、あと30分ぐらいだ」と途中途中で励ますと、生徒も頑張って歩いていきます。箱根駅伝で連覇中の大学の監督がテレビで指導法について話しているのを聞きましたが、選手の能力を伸ばすために遠い先の目標だけでなく、一週間や一ケ月後にどのくらいタイムを縮めるかなど、具体的に何ができるようになるかを明示することが必要だそうです。何かを達成するために、途中段階で乗り越える目安を設定することが有効だという例は数多くあるようです。

教育界でもスタンダードに基づく改革が多くの国で展開されています。わが国では、これまでもスタンダードとして、学校の教育課程(いわゆる教育計画)作成の基準となる学習指導要領や観点別学習評価のための評価規準などがありましたが、教育の質向上に大きな役割を果たす教員に関しては、平成28年に教育公務員特例法等の一部改正により、「校長及び教員の職責、経験および適性に応じてその資質向上を図るための必要な指標」を定め、それを踏まえた教員研修計画を策定・実施することが求められました。

そして昨年度、各都道府県・指定市教育委員会等で「指標」が策定され、それに基づく研修計画が作成されました。教員等の成長プロセスを想定し、その段階ごとの目安となる「指標」を示すとともに、その実現を図る研修を準備する体制が整いました。

なお、教職員支援機構では、昨年度47都道府県及び20指定都市の教育委員会に対し、「指標」策定による成果と課題についてアンケート調査を行っています。その結果を見ると、成果については「教員の成長プロセスが明確化」「大学との連携の深まり」「養成-採用-研修の明確化」「採用時の教員の姿が明確化」などが挙がります。まさに「指標」を策定する趣旨が反映された結果となっています。また、今後の課題としては、「指標の具体的な活用方法」「指標に対応した研修の効果測定」「指標の改善・更新をどうするか」などが挙がっています。

このうち、「指標の具体的な活用方法」については、各教育委員会が実施する研修を検討したり、校内研修やOJT等の計画を検討したりする際の視点となったり、教員等が大学教員と研究活動をしたり、学会活動を行ったりするなど様々な研究活動や自己研修により成長の目安になることが期待されています。

また、「指標に対応した研修の効果測定」「指標の改善・更新をどうするか」については、研修を受講した教員に対し、「指標」で設定した項目(教育方法や教材活用などの授業力、児童生徒理解や教育相談などの生徒指導力、他機関との連携や教員連携などのマネジメント力等)についてどれが達成できたか、あるいは未達成だったのかについてアンケートによって捉えるとともに、年度末に管理職が当該教員の状況を客観的に把握し、その結果をもとに研修計画を改善することを検討したり、教員等が自己の研修履歴を把握できるシステムを構築したりするなど様々な取組があると聞いています。今後の展開が期待されるところです。