NITSニュース第62号 平成30年10月12日

教師のメンタルヘルスを左右する発達の問題

早稲田大学教育・総合科学学術院 教授 河村茂雄

今回取り上げたいのは、精神疾患の問題というよりも、内面に問題を抱えていたり、不適応感も高まっていて、教員組織全体で活動しているときに、個別配慮が常に必要で、それがないとトラブルや不適応が発生しやすい、二次的援助レベルの40,50代の先生です。

二次的援助が必要な教師は、①自主・向上性 (教育実践の向上を目指して教員個々の自主的に学び続ける意欲と行動)が低く、学校全体の前向きな取り組みに水を差すような発言や行動が見られます。かつ、②同僚・協働性 (学校全体の教育活動に対して組織的に取り組めるような同僚性と協働性についての意識と行動)が低く、学校全体に貢献する、同僚をサポートするという意識が低く、自分のことだけに近視眼的になりがちで、不都合な出来事に対しては被害者意識を持つ傾向があります。①②から、徐々に周りの教員たちから孤立するようになってきます。このような背景には、人間の発達の問題があり、どのような先生もそのような状態になる可能性があるのです。

成人期中期に入るこの時期は、体力や知力の衰えが見え始め、自分の能力や地位の拡大に限界が見え始める時期で、青年期に確立して今までの自分が持っていたアイデンティティに、ゆらぎが起こります。それから生起するのが①②なのです。

この時期に、現実の自分を受け入れ、自分の内的変化にしっかり気づき、その上でこれからどう生きていくのかという、主体的に自己の生き方を考えることができるかが、新たなアイデンティティの確立(再体制化)につながってきます。生き方のギアチェンジです。

アイデンティティの再体制化がうまくいかないと、「停滞」や「自己耽溺」に陥ることになります。停滞とは、変化を拒否して同じレベルに留まって安住していることです。自己耽溺とは、本業を疎かにして他の関係のない趣味などに夢中になっていることです。これを続けていると、職場での人間関係や、本人の精神衛生も徐々に悪化していくのです。

このような発達の問題を抱えた教師たちへの対応は、何かの教育技術の研修をする、何かのサポートをするという次元ではありません。その教師が自分自身の発達の問題を直視し、試行錯誤する中で、新たな自分なりの人生の指針を見出し、その中に教師としての仕事が意味のあるものと位置づけられていかなければ、本質的には何も変わらないのです。それがある程度できた時点で、現状に合わせて、自ら変わっていこうとするのです。

したがって、自分の生き方や教師の仕事の意味について、本音で語り合えるような機会を持てていることがとても大切になります。それが職場でできれば最高です。そして、他業種の人たちも加わったグループアプローチへの参加も有効です。日常生活から距離を取り、参加メンバーと率直に語りながら、自分のことを洞察することができるからです。