NITSニュース第61号 平成30年10月5日

学校保健活動をめぐる危機意識の覚醒

筑波大学 教授 柳沢和雄

児童生徒の生活習慣の乱れ、いじめ、不登校、性の問題行動や感染症などの健康課題の深刻さは、常に指摘されてきました。さらに近年では経済格差がもたらす教育格差や健康格差が顕著になってきています。このような深刻で複雑な健康課題の解決には、チームとしての学校の組織的な取り組みや、家庭・地域との協働的な実践が求められています。この組織的な取り組みや実践を具体化するのが学校保健マネジメントですが、以下のような点を意識したマネジメントを考えて欲しいと思います。

1. 保健主事と養護教諭による組織的学校保健活動の土台作り!

学校保健活動は、健康課題に関する専門的な知識や技術が求められることから、養護教諭に依存している学校も多いようです。しかし、養護教諭だけで多様な健康課題に対応することは困難です。そこで学校保健活動に関する調整や学校保健計画の作成、組織的活動の推進に当たる保健主事の活躍が期待されるのです。養護教諭の持つ専門的知識を学校保健計画や組織的活動に活かしながら、保健主事を中心とした体制づくりが求められます。

2. 有効なマネジメントサイクルはResearchから!

学校保健活動を効果的・効率的に展開するためには、Plan-Do-Check-Actionというマネジメントサイクルが機能しなければなりません。現状を見ると、C(評価)とA(改善)の機能をさらに充実させなければならないようです。”やりっぱなし”ではいけません。そして、このサイクルは、Research(調査・研究)による実態の把握が前提となっていることを忘れてはなりません。

3. 学校保健活動への初期段階からの巻き込みを!

学校保健マネジメントでは、学校内外の関係者の巻き込みがポイントとなります。学校保健活動の初期段階から、管理職や教諭はもとより保護者や関係機関の協力を求めるためには、養護教諭や学校三師等の専門家による実態把握と、保健主事を中心とした情報提供による危機意識の覚醒が求められます。保健主事は、把握された健康課題を解決するための方法や手続きを、先の専門家とともに検討し、関係者の協力を求めることが肝要です。

4. 戦略型ミドルがトップを変え、学校保健活動を変える!

学校保健活動は、保健主事や養護教諭等の中間管理職によるトップへの働きかけが重要になります。すなわち、児童生徒の健康課題の客観的な実態を根拠とし、現場の状況や条件を考慮した実現可能な選択肢を管理職に戦略的に提案し、学校保健活動を推進しなければなりません。保健主事や養護教諭は、調整型から戦略型に変わらなければなりません。

5. 児童生徒と家庭の主体的な参画を!

最後に、学校保健マネジメントが克服しなければならない課題に、児童生徒と家庭の主体的な参加があります。学校や関係機関がいくら頑張っても、児童生徒と家庭の自覚と主体的な取組みが生起しなければ学校保健活動は成立しません。特に、家庭への働きかけは多様な背景があるため軽々に解決策を提案することはできませんが、まずは絶え間ない児童生徒の危機的状況と解決策の提案を発信し続けましょう。

学校保健活動マネジメントの鍵は「情報の共有」にあります。客観的なエビデンスの発信によって児童生徒の健康をめぐる危機的な状況を関係者が共有することで、「このままではまずい!」「児童生徒の生存権に関わる事態だ!」という意識が醸成され、関係者の巻き込みと有効な組織的活動が可能となるのです。