NITSニュース第57号 平成30年9月7日

校内研修で「学校組織マネジメント」を!

兵庫教育大学大学院学校教育研究科 教授 浅野良一

1 学校づくり能力の向上に向けた「戦略マップづくり」の活用

今回は、つくばの教職員支援機構で実施した「学校組織マネジメント指導者養成研修」の3日目「戦略マップづくり」を校内研修でどのように活用すればよいかをお話します。

「戦略マップづくり」は、①わが校の現状と課題を踏まえ、②どのようにすればめざす姿に近づけるかを③3年の時間軸で考える学校づくり能力を育成するものです。

学校の管理職をはじめ主幹教諭、主任といったミドルリーダーの教職員には必須の能力ですが、それ以外の教職員にとっては、どのような効果があるのでしょうか。

研修を実施したところ、私が感じる効果は次の3つです。まず第1に、学校組織マネジメントを他人ごとではなく自分事としてとらえることで、学校経営への参画意欲が向上します。

第2に、複数の教職員の知恵を出し合い議論することで、学校のビジョンや各種の教育活動や取組の効果性・効率性向上に向けた工夫改善が進みます。

そして第3に、中期的な学校の道筋の流れを理解することで、年度当初に出される学校経営計画の位置づけと内容の理解が進み、本年度の各種活動の意味づけが明確になることで、仕事のやらされ感からくる多忙感の克服に役立ちます。

2 「戦略マップづくり」の4つのルール

「戦略マップづくり」では、細かな書き方のルールは定めていません。それは、教職員の自由な発想と、教職員間の侃々諤々、百家争鳴、喧々囂々の議論を期待するからです。研修では、書いたり消したりがしやすいホワイトボードを使うと便利です。

ルールは4つです。まず最初に、わが校の目指す姿のキーワード(めざす子ども像、学校像、教職員像)をボードの右上に書いてください。次に左下に学校の現状を書きます。そして、現状をめざす姿に近づけるために、特に力を入れる点である学校の重点事項を1~3つ定め、左下と右上に矢印でつなぎます。4つ目のルールは、その重点事項を進めるために具体的な取組を3年間の時間の中で発展的に整理します。

例えば、重点事項が学力の向上であった場合、教員の授業力を3年間でどのように高めるか、地域に開かれた教育課程をどのように開発するか、また、新たな取り組みを行うための時間を生み出す業務の適正化について、事務職員が中心となってどう進めるかなどの様々な取り組みが考えられます。

3 校内研修シリーズの活用

つくばでの研修では、事前にわが校の現状をSWOT分析してもらいました。校内研修では、1回あたりの時間も限られていますので、教職員支援機構が配信している校内研修シリーズの「Ⅰ 学校の内外環境の分析」を使って1回目はSWOT分析をし、2回目に「戦略マップづくり」をするといいのではないでしょうか。

もし、3回の実施が可能であれば、1回目と2回目の間に、これも教職員支援機構が配信している校内研修シリーズの「Ⅱ 学校のビジョンの検討」を活用してめざす学校像を描くのもひとつの手です。

1回しか時間が取れない場合、研修担当者が事前に実施したSWOT分析を使うことも考えられます。

この「戦略マップづくり」は、自由な発想で考えてもらいますが、学校全体を俯瞰してみる経験がない教職員にとっては、学校の経営計画が頼みの綱になります。わが校の経営計画をじっくり読んで理解するいい機会にもなることでしょう。

4 学校ビジョン共有の4つの関所を越える

ビジョンの共有が必要だとよく言われますが、その共有を阻む3つの関所があります。第1は、「論理の関所」です。学校ビジョンとは何か、言い換えればビジョンの構成要素が曖昧なことが共有を阻んでいます。「戦略マップづくり」の目指す姿、力の入れどころである重点事項が関所越えの役割をします。

第2は、「状況の関所」です。なぜこのビジョンなのか理由が曖昧なことから起こります。「戦略マップづくり」を通した学校の現状分析や教職員間の意見交換による学校の置かれた状況のすり合わせ、いわゆる状況の共有化が関所越えの役割をします。

第3は、「感情の関所」です。学校ビジョンの実現に積極的になれない理由の一つに、ビジョンづくりへの関わりのなさがあります。自らの意見も含まれた「戦略マップ」を校長が今後の学校経営のヒントにしてくれることが関所越えの役割をします。