NITSニュース第56号 平成30年8月31日

リスクの先にあるクライシスを意識した取組を

高崎経済大学講師・高崎市教育委員会教育長 飯野眞幸

去る8月8日、台風が近づく中、東京の国立オリンピック記念青少年総合センターでの副校長・教頭対象のリスクマネジメント研修が行われましたが、今回も講義が終わった後、受講者の皆さんとの間で一体感というか、充実感のようなものを感じることができました。

私は長年学校危機管理を研究し、大学教育にも関わっていますが、その一方で教育行政の最高責任者でもあります。場合によれば私自身が直接責任を問われる立場に追い込まれることもあり得るわけで、ある意味、受講者との間に危機感や使命感等が共有できていることが要因かも知れません。

リスクマネジメントは副校長・教頭

私は、中央研修でこのリスクマネジメントを担当するようになって10年近くになりますが、最初の時から、「リスクマネジメントは副校長・教頭の双肩にかかっている」という趣旨の話を導入部分で必ずしています。

もちろん、最高責任者である校長の役割を無視したり、軽視しているわけではありませんが、校長と違い職員室で執務することの多い副校長・教頭が持つ職員や児童生徒に関する情報量は圧倒的なものがあります。そしてそれらの情報の中から放置しておくと問題になりそうなものを峻別し、それらを迅速・適切に処理することによって危機を未然に防ぐ役割を果たしてもらっています。校長にとってこのような頼もしい副校長・教頭との出会いはどれほどありがたいか知れません。校長と副校長・教頭がこのような絆で結ばれている学校は危機に見舞われる確率は当然低くなるはずです。

リスク(risk)の先にクライシス(crisis)がある

私の講義では、リスクとクライシスとの関係を図を使って説明しています。一例を挙げます。今年の夏の暑さは異常でした。熱中症による死亡事故も各地で発生しました。その中でも、小学校1年生男児が校外学習の途中で気分が悪くなり、結果的に死亡するという痛ましい事案は大きく報道されました。

学校は暑いからといってエアコンの効いた室内で全ての教育活動を完結させるわけにはいきません。ある程度リスク(危険)を承知したうえで、万全の配慮のもと諸活動を行わざるを得ないという現実もあります。そして時に重大事態=危機(クラシシス)が生じてしまうこともあります。私が教育現場に強く望みたいのはリスクの先にあるクライシスをもっともっと意識してほしいということです。特に、暑い中での諸活動実施の適否の判断をはじめ、児童生徒が体調不良を訴えた際の対応方針の確認等は最重要です。学校の過失や不作為によって犠牲者を決して出さないよう細心の注意を払う必要があります。

インテグリティ・マネジメント

6月15日にスポーツ庁長官名の「我が国のスポーツ・インテグリティの確保のために」というメッセージが発出されました。インテグリティ(integrity)とは、誠実性・健全性・高潔性などの概念を意味し、欧米の企業社会でよく使われています。長官のメッセージは相次ぐスポーツ界の不祥事を念頭に置いたものと思われますが、学校教育においても当てはまる原則です。不祥事の防止はリスクマネジメントの大きな柱です。学校においてインテグリティを意識した取組が推進されることを期待しています。