NITSニュース第13号 平成29年9月15日

キャリア教育

筑波大学 名誉教授 渡辺三枝子

私は、当機構の研修事業で全国のキャリア教育担当教員の方々とお会いする機会に恵まれたおかげで、「キャリア教育を日本の学校でどうするのか」を考え続けてきました。

一時期「生徒の希望する職場を体験させること」という解釈が広まり、職場体験を受け負う組織さえ誕生し、キャリア教育の本来の意味とは逆の影響を教育現場に及ぼし出したことを知った時には、キャリア教育に関わったことを後悔さえしました。

しかし、同じ悩みをもつ教師たちとの出会いもありました。特別支援を含むいくつかの学校を3年間継続的に訪問する機会があり、そこでは、教師達と学校の立地・環境、児童生徒の状況や、保護者の姿勢等を話し合うなかで、「キャリア教育の意味と真の目的」を考えることができました。

他方、その話し合いの中で、教師から日ごろの取り組みや工夫が紹介され、キャリア教育であるか否かという悩みを聞きました。「キャリア教育は何か新しいことをしなければならない、職業に関係すること、将来の希望を考えさせ、それがかなえられるようにしなければならないのか」という困惑の声を度々聴きました。

また一方では、自分の授業で工夫していることの紹介や、てこずる生徒として評判の子について、まったく別のうれしい情報が紹介されるなど、広く日ごろ気になることがとりあげられることもありました。

こうした話し合いに発展した時、私は、キャリア教育の理念が実現できていると感じました。学校は組織としてその目的である生徒の将来(キャリア)に影響を与えているのですから、組織形成員として、組織の目的を果たすために話し合うことは不可欠です。自由に話し合えないとしたら、教育現場の課題なのではないかと思います。

教師が互いに教育活動について安心して話せる雰囲気こそキャリア教育の土台ではないかと思います。NITSこそ全国の教員が教育に燃えて集まるのですから、相互の対話の価値を経験されることも研修の成果ではないかと思うのです。