NITSニュース第9号 平成29年8月18日

スクール・マネジメントを考える(Ⅰ)

独立行政法人教職員支援機構 理事長 髙岡信也

先週のこの稿で,「現役の学校経営の研究者たちは,私の世代を指導した先人たちとは全く違う使命感を持ち,異次元の領域で仕事をしている」と書きました。

いわゆる翻訳教育学の段階(黎明期)を経て,ようやく本格的かつ意味のある研究が増えたこと,またその担い手が多く輩出されていることを,この分野の発展だと考えたいと思います。

一方,近年のスクール・マネジメント研究は,教育経営学の一般的理論研究という範囲を超えて,個々の学校の経営(運営)に関するきわめて具体的な領域に踏み込んで行われることが多くなったようです。

従来行われてきた校長の役割機能やリーダーシップに関する研究,主任等の職制配置と個々の役割に関する研究,組織と構成員のモラール(やる気,意欲)のあり方やその維持・向上に関する研究等については,長い研究の実績と蓄積があります。 これらの研究は,何れも,学校という組織,従ってその構成員たる教職員の組織運営上の職務に関する研究であり,その範囲で,教員個々人の学級における業務,つまり授業に関する振る舞いや課題は基本的に考察の外,という傾向が強かったようです。

なるほど学校の使命の第一は,子供たちに知識技能を身につけさせることと社会生活に適応する力をつけること。その仕事が,教員の学級の経営や授業に委ねられることは当然です。その観点から言えば,スクール・マネジメントとは,学級経営や授業実践を円滑かつ効果的に行うために必要な「外的要因の整備」ということになります。

ですから,学校におけるマネジメントの問題は,校長先生,せいぜい教頭先生等の管理職に必要な見識の範疇だと考えられてきました。大げさに言えばごく最近まで,国や行政も,研究者も,そして当事者である各層の教員もそう信じてきたといっても良いでしょう。 「経営的視点から学校を観る」という表現そのものが,学校の「経営陣」という存在を前提にしている,したがって,スクール・マネジメントのあり方を考えるのは管理職の仕事だ。どうもこの説明自体,論理的破綻はないようですから,誰もがそう信じたのです。

そう言えば,教員免許の取得に必要な教育内容と単位数を示す教育職員免許法(教免法)やその施行規則を見ても,学校経営に関する内容は,「教育に関する社会的,制度的または経営的事項」の一部に辛うじて含まれているだけで,多くの場合,大学での授業科目としては,教育社会学や教育制度・行政論として開講されるのが実態のようです。 教員免許を取得する前提として,学校経営に関する知識が必須と考えるのではなく,むしろその分野は,教員になった後の10年も20年も後に,つまり教員としての長い経験の後に考えることなのです。

こうして,スクール・マネジメントすなわち学校の経営,運営に関する知見は,管理職の独占状態を生じました。多くの教員は,教頭,校長への登用試験の受験の際に,ほぼ初めて,この分野の内容(研究の成果を含めて)を真剣に学び考えるということになり,それまでの教員生活では,どちらかと言えば「マネジメントの対象者」という位置に甘んじることになっているのではないでしょうか。