NITSニュース第4号 平成29年7月14日

知識の活用について

独立行政法人教職員支援機構 次世代型教育推進センター 上席フェロー 大杉昭英

ずいぶん前に教育センターで仕事をしていたとき,通勤列車で理科(生物が専門)の先生と一緒になることがありました。春先,車窓から川の中州に咲いた菜の花を見て私は「きれいですね,『菜の花や 月は東に 日は西に』という句が思い浮かびますね」と言ったところ,思ってもいなかった言葉が返ってきました。「中州に咲いているのはおかしいね。植生から言うと,あんなところには咲かないと思うのだが。きっと洪水などで種子が運ばれたのかな?」と言うのです。

このように,同じ対象物を見ても捉え方が異なるのは,捉える側の持っている「概念的な枠組み」の違いによるのでしょう。理科の先生は私と違い「植生」(気候,地形,土壌や動物などとの関係で形成)という「概念的な枠組み」で中州に咲く菜の花という対象を捉えたのです。

同様に,何年か前の新聞に「台風,長雨で野菜高騰」という見出しで,「台風の上陸と長雨の影響で,野菜の品不足が続き,小売価格が高止まりしている」という内容の記事が掲載されました。大人であれば,「需要」「供給」「価格」で構成される「概念的な枠組み」に基づいて,需要が変わらず,供給曲線が左にシフトしたので価格が上がった一つの事例として解釈するでしょう。しかし,小学生ぐらいだと「ある年に,台風がきたので野菜の値段が上がった」という事実として理解するのではないでしょうか。

我々は,社会現象や自然現象を捉える際に知識を活用します。その知識として,平成28年12月に出された中央教育審議会答申で述べられた「各教科等の本質を深く理解するための不可欠となる主要な概念」に着目すべきではないでしょうか。そして,それを「概念的な枠組み」とし,社会や自然の現象を捉えるために活用できるようにする必要があるでしょう。