NITSニュース第240号 令和7年1月22日

弁護士として教員の方々にやってほしいたった一つのこと

おにざわ法律事務所 弁護士 鬼澤秀昌

私は、弁護士として、様々な学校現場の先生方からの相談を受けています。相談にあたって様々な法律が関係していますが、最近は学校に関する新たな立法も増加しており、すべての法律について、学校現場の教員が細かい条文やガイドラインの内容を暗記することは現実的には困難のように思います。では、教員は法律の何を学べば良いのかずっと考えていたのですが、最近一つの仮説が見えてきました。それは、教員の皆様に求められるのは、細かい知識ではなく、「リーガルマインド」ではないか、より具体的に言えば、児童生徒とのコミュニケーションや、トラブル発生時にもスムーズに法律を参照し弁護士にも相談できるようにする能力ではないかということです。そして、それは「法律を具体的な事例を通じて学ぶ」ことにより可能になります。

まず、法律には、①法的責任を発生させるもの(国家賠償法、刑法等)、②特定のテーマについて理念を定めているもの(LGBT理解増進法、教育機会確保法等)、③行政組織・公務員の行為規範として定められているもの(いじめ防止対策推進法、わいせつ教員防止法)など、様々な種類があります。損害賠償請求、刑事罰、懲戒処分等の法的な責任が生じる法律(①)を学び、回避する必要があることは分かりやすいと思いますが、他方、②や③については、どのように学んで行けば良いのか、イメージを持ちづらいかもしれません。しかし、具体的な事例を通じて学べば、②の法律は生徒指導に役立ちますし、③の法律は被害の深刻化の防止に役立ちます。

まず、教員の皆様が生徒指導をされる際には、その都度、特定の知識を確認して指導をする訳ではないと思います。そのため、生徒からの悩みを聞いたその瞬間に、法律のことも思い浮かべられるかどうかが勝負になります。②のカテゴリに含まれるLGBT理解増進法や、教育機会確保法は、いずれも、学校の教員に対して何か具体的な義務を定めているわけではありません。しかし、各法律は、何も理由がなく出来た訳ではなく、それぞれ苦しい思いをしている子どもたちの状況を踏まえて制定されたものばかりです。法律を学ぶ際に条文を見るだけでなく、具体的にどのような辛い思いをもっている児童生徒がいるのかを学ぶことで、児童生徒の悩みを聴くタイミングで、法律の内容や知識を活かした対応ができるかもしれません。

また、③のカテゴリの法律で対処されているいじめの対応や、わいせつ被害については、深刻化する「パターン」があります。法律上の義務については、そのようなパターンを想定して具体的な教員の義務を定めています。したがって、そのような事例を多く学ぶことで、「そういえば、このあたり何か気を付けなければならない点があったかもしれない」と気付くことができます。また、多くのパターンを学ぶことで、深刻化するリスクを早期に検知することができます。

教員の皆様は、教職課程や、教員採用試験で「教育法規」について学ばれたと思います。今までは、法律は条文の説明等が中心だったように思いますが、ぜひ、今後、「リーガルマインド」を獲得するためにも、新しく法律を学ぶときには「どのような事例があるのか」「どのように困っている児童生徒がいるのか」という観点から学んでいただきたいと考えています。