NITSニュース第238号 令和6年11月22日
「学校教育の質」保証と学校組織マネジメント
国士舘大学体育学部こどもスポーツ教育学科 教授 北神正行
学習指導要領の改訂を一つの起点とする我が国の教育改革は、「学校教育の質」保証という枠組で展開されるという特徴を持っています。具体的には、➀学習指導要領の改訂に基づく教育内容の改革による「学力の質」保証、②その教育を担う教員の資質・能力等の改革による「教員の質」保証、③そして、その教育が展開される学校の組織や運営の在り方の改革による「経営の質」保証という3つの枠組です。
例えば、2020年度から実施されている現行の学習指導要領の改訂は、2017年に告示されていますが、2016年に教育公務員特例法と教育職員免許法が改正され教員の資質・能力の向上策が構築されています。そして、2017年には「チームとしての学校」という新たな学校像の具現化に向けた学校教育法の改正と地方教育行政法の改正によるコミュニティ・スクールの一層の展開と社会教育法の改正による地域学校協働本部の設置といった学校の組織や運営に係わる改革が行われています。こうした教育改革の枠組は、前回の学習指導要領の改訂の際にも用いられています。
教育改革は、このような枠組の中で「学校教育の質」保証を図ることを目的に取り組まれているわけですが、さらにその改革の実効性を担保するために2つの方策を導入しているのが、現代教育改革の特徴でもあります。一つは、この3領域に「評価」政策を連動している点です。「学力の質」保証では、全国学力学習状況調査という学力評価、「教員の質」保証では教員評価(人事評価)、「経営の質」保証では「学校評価」です。
では、何故、「評価」を導入すると「学校教育の質」保証が確実に担保されるのでしょうか。理由は2つあります。まず、評価を行うと評価結果という明確な根拠(エビデンス)が得られ、それに基づく改革・改善策の構築が可能になるからです。経験と勘による改善策ではなく、明確な根拠を持った方策が実施できるからです。2つ目の理由は、評価を導入することで評価の前提となっている目標までさかのぼって吟味・検討が行われることで、より実効性のある方策が構築できるからです。評価は評価することが目的ではなく、目標があるから評価という機能が必要になるのです。
もう一つの方策は、この3領域にマネジメントという考え方に基づく取組が導入されている点です。「学力の質」保証では、授業改善から教育課程改善そして学校の組織改善まで視野に入れたカリキュラム・マネジメントという考え方が、「教員の質」保証では人材育成を中心とするスタッフ・マネジメント(メンタルヘルス・マネジメントを含む)という考え方が、そして「経営の質」保証では学校経営や学校組織改善を図るスクール・マネジメント(チーム・マネジメント、リスク・マネジメント、タイム・マネジメント、コミュニティ・マネジメント等を含む)という考え方が導入されています。
マネジメントという視点が入ることによって、計画・実施・点検・評価のPDCAサイクルに基づく実践が組織的、計画的に展開され、それぞれの質保証に向けた方策が実効性あるものとなるのです。
こうした方策の導入によって学校に期待される「学校教育の質」保証に向けた取組の展開が求められているわけですが、その際、注意しなければならない点は、この3つの取組をバラバラに展開するのではなく、有機的に結びつけた取組としていくことが重要となります。
そこでは、学校は教育機関として社会から期待される教育の質保証に向けて、カリキュラム・マネジメントを核に、その教育を担う人と組織をどのように設計・配置し、実施していくか、3つのマネジメントを有機的に結びつけた学校のマネジメント、すなわち学校組織マネジメントを構想し、展開していくかが問われているといえます。こうした学校組織マネジメントの実践によって、学校の教育力・組織力を高めていくことが目指されているといえます。
現在、各学校には「令和の日本型学校教育」の構築に向けた取組が求められていますが、そこでは、「校長を中心に学校組織マネジメント力の強化を図る」ことによって「学校組織全体の総合力を発揮していくこと」(中教審答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」2021年)が必要とされています。このことは、まさに上で述べてきた3つのマネジメントを有機的に結びつけた取組によって可能となるものでもあります。これまでの学校の取組をこうした観点から点検し、どこにどのような改善課題が存在するのかを明確にしながら、新たな学校づくりに向けたビジョンと戦略の構築とその実践によって期待される「学校教育の質」保証に向けた学校組織マネジメントの展開が期待されているといえるでしょう。