NITSニュース第236号 令和6年9月20日

探究的な学びの基盤となる“情報活用能力・思考スキル”

中京大学教養教育研究院 教授 泰山裕

令和の日本型学校教育のキーワードの一つとして、「個別最適・協働的な学びの一体的な充実」が示されています。これから、先の見通せない、変動が激しい時代に生きる児童生徒には、この先何が大事になったとしても、その変化を見通して、自分をアップデートできる、学び続ける、探究し続けることができる力が必要です。

児童生徒が主体となって、自分の学習状況や得意不得意に合わせた最適な学習を、自ら調整し、探究しながら学ぶ力を育むことが期待されています。これは、現行の学習指導要領においても「学びに向かう力・人間性等」として、強調されている資質・能力です。

「学びに向かう力・人間性等を持った児童生徒」を具体的にイメージするために、「自律的に探究することができる児童生徒」としてイメージするのがわかりやすいと思います。探究的な学習過程を自分の力で進めていくことができる児童生徒、つまり、自ら課題を設定し、必要な情報を集め、集めた情報を整理・分析し、自分なりの考えをまとめ、必要に応じて適切な方法で表現できる児童生徒です。

しかし、自ら学習を進める力が大事だと言っても、いきなりすべてを児童生徒に任せてしまっても、うまく学べるとは限りません。そのような学びを実現するためには、課題の決め方、情報収集の仕方、整理・分析の方法、まとめ・表現する方法、などのような、探究を進めるための方法を身につける必要があります。このような学習の基盤となる資質・能力の一つが「情報活用能力」です。

児童生徒が個別最適に学びを進めるためには、図書資料やインターネットを用いた「情報の集め方」や、 文書作成ソフト、プレゼンテーションソフトなどを用いた「表現の方法」などの情報活用能力が基盤となることが期待されます。

そして、それは「整理・分析の方法」も同様です。集めた情報を整理・分析するための方法として、思考スキルの指導が考えられます。思考スキルとは「考える」と言う言葉を「比較する、分類する」などのような具体的な技法として整理したものです。泰山ほか(2014)※注1 は、学習指導要領の分析から19種類の思考スキルを整理しています。整理・分析の方法として、思考スキルを指導することで、「この課題なら“理由づける”ことが必要だ」「情報がたくさん集まったので、“多面的に”整理してみよう」などのように、整理・分析の方法を自分で判断して、学習進めることができるようになります。そして、このような思考スキルの指導には思考ツールを活用することも有用です。「思考スキル」に応じた適切な思考ツールを活用することで、各教科等の学びの中で思考スキルも合わせて指導することが可能になります。

基盤となる情報活用能力をまずは指導し、活用させ、選択させるというように、教員が少しずつ手を離しながら、児童生徒が自分に合った学びを選択し、自ら学びを進めていく、個別最適な学びの実現が求められます。

※注1:泰山裕. 小島亜華里. 黒上晴夫. 体系的な情報教育に向けた教科共通の思考スキルの検討:学習指導要領とその解説の分析から.日本教育工学会論文誌.2014, 37(4), p.375-386