NITSニュース第231号 令和6年3月8日
「研修観の転換」に向けて
独立行政法人教職員支援機構 審議役 佐野壽則
「豊かな気付き」が醸成される研修
教職員研修とは、どのような営みでしょうか。
教職員は、実践の中で、子供と関わり、同僚と対話し、先輩教員から助言を受け、経験を振り返り、自ら知識を得たりします。これらを通して、子供を見る目や判断力を深め、教職の技に習熟し、子供観、学習観などを形成していきます。
教育センター、NITS、学校などでの教職員研修は、実践、実践の省察、自己研鑽を繰り返す教職員の教職生活の過程の中に位置付き、その力量の形成や深まりを支援することで、それぞれの力量形成・深化の過程がより豊かなものになるよう、提供するものだと考えます。
それでは、教職員が力量を形成したり深めたりする上で、どのような過程が分岐点となるでしょうか。NITSでは、次の3つの過程に注目しつつあります。
- ①知識やスキルについて、新しく知る過程
- ②自らの教育実践を意味付けたり、自らの考えの枠組みを捉え直したりする過程
- ③自己の「在り方」を発見したり、問い直したりする過程
①は、自分の外にある知識やスキルを取り入れようとする過程です。一方、②、③は、意味付けや捉え直し、発見や問い直しを通じて、自らの教育実践の特徴や考えの枠組み、「在り方」に「気付く」過程です。
現在、NITSでは、①とともに、②や③の過程に着目し、対話の時間、内省の時間、教材と出合う時間、問いかけの工夫などを通じて、教職経験と関連付けられた「豊かな気付き」が、これまで以上に、参加者の中に醸成される研修にしたいと考えています。経験と関連付けられることで、参加者は、自分事として研修を捉えやすくなりますし、このような「豊かな気付き」が、教育実践を発展させていくからです。
教職員研修の創造性と「共通言語」
教職員研修は、とても創造的な営みです。
制度的な枠組みが多くなく(例えば教科書はない)、学びをデザインする自由度が高いことが一因です。
他方、講義による伝達型講習や、ハウツーを習得する研修が多いという指摘があります。また、教育センターの指導主事などからは、しばしば、「今の研修のやり方では良くないと思っているが、何をどう考え、どこから手を付ければいいか分からない」という声が上がります。
学びのデザインの自由度が高い反面、手掛かりとなる共通の枠組みが少なく、それぞれの研修提供者は課題意識を持ちながらも、前例踏襲的に企画、運営せざるを得なくなっている状況があるのではないかと考えています。
現在、NITSとして目指しているのは、教職員の学びに関する「学び合いのコミュニティ」が、全国各地で形作られ、またそれらが繋がり、大きなネットワークが形作られていくことです。そのきっかけの一つとして、近々、上記のような点を含め、研修提供者が学び合う手掛かりとなる「共通言語」を提案したいと考えています。
今後、全国で教職員研修を創られている方々と、教職員の学びについて、様々に対話する機会が持てることを、心から楽しみにしています。