NITSニュース第217号 令和5年8月4日

「キャリア・パスポート」等の活用

文部科学省初等中等教育局児童生徒課 生徒指導調査官/国立教育政策研究所 総括研究官 佐藤学

「今日の夕方、編集者からマンガ家デビューしたという内容の電話がかかってきた。2、3年前からずっとマンガの投稿をしていたから、とてもうれしかった。中学、高校で身に付けてきた知識を活用し、今日までがんばってきた。小学生のときは、マンガを描くのに必要な知識は国語と美術だけだと思っていたが、そうではなかった。マンガにも図や表を使ってシーンを説明する部分がある。そういう部分には数学の勉強は欠かせない。理科の実験のシーンもあれば、社会科の授業のシーンだってある。学校の勉強に必要のないものはない。その職業の印象や仕事内容で必要な勉強を決めがちだが、必要ではないと思っていた教科も、その仕事につけば、きっとどこかで役に立つ。だから、つまらなくても、難しくて大変ですぐにいやになってしまう勉強もがんばってほしい。」

これは、今からおよそ10年前の中学1年生、13歳の生徒が学級活動の時間に書いた10年後の「未来日記」です。将来、漫画家になりたいという希望を小学生のときからずっと温めていて、その夢がかなった瞬間の一日を想像しながら書いています。夢が現実になった瞬間の嬉しい気持ちだけでなく、未来から見た過去としての現在の学びを振り返る形で、その意義について考え、新たな学習や生活への意欲につなげています。

現行の小学校、中学校、高等学校の学習指導要領においては、学級活動・ホームルーム活動(3)の指導に当たって、学校、家庭及び地域における学習や生活の見通しを立て、学んだことを振り返りながら、新たな学習や生活への意欲につなげたり、将来の(在り方)生き方を考えたりする活動を行うことが示されています。上記の例は、まさにこのねらいに即した活動といえるでしょう。ただ、現行の学習指導要領は、その際、児童(生徒)が活動を記録し蓄積する教材等を活用することも示しており、一過性の活動にせず、小学校から高等学校までの長い期間の中で、何度も振り返って次の見通しにつなげることを求めています。本人が中学3年生になったとき、又は高校生になったときにこの日記を読み返したとするならば、理科や社会の学習とのつながりをどう書き換えるでしょうか。そして、書き換えていくことで、本人は何を感じるでしょうか。

令和5年6月16日に新たな教育振興基本計画が閣議決定されました。この第4期の計画では、第3期と同様に、幼児教育から高等教育まで各学校段階を通じた体系的、系統的なキャリア教育を推進することが示され、加えて、初等中等教育段階においては「キャリア・パスポート」等を活用し、児童生徒が、学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を育成する取組を通じて、社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい(在り方)生き方を実現していくキャリア発達を促進することが新たに示されました。多くの児童生徒が、「キャリア・パスポート」等を活用して、初等中等教育段階という長い期間の中で、学ぶことと自己の将来とのつながりを考える機会が得られることを期待しています。