NITSニュース第216号 令和5年7月21日

学校での避難訓練は、非現実的?

岩手県立図書館 館長/岩手大学地域防災研究センター 客員教授 森本晋也

地震発生時を想定した学校での訓練では、「先生の指示で子どもたちが机の下に入り身を守る」「校内放送を使って避難の指示をする」「揺れがおさまった後、校舎から校庭に集まる」ということがよく行われます。このような様子について、中央教育審議会・学校安全部会において、「地震学者の観点から見て、学校では非現実的な訓練がずっとなされている」のではないだろうかという指摘がありました。いったいどういった点が、非現実的なのでしょうか?

例えば、先生の指示で子どもたちが机の下に入るということです。そもそも立っている先生よりも座っている子どもの方が揺れに先に気付きます。そして震度6を超えると、話すことができない状況になると言われています。子どもには、どのような場所にいても、自らの判断で安全に対処できる力を身に付けられるような防災教育や訓練を行っておく必要があります。
また、大きな地震では高い確率で停電し、校内放送が使用できない可能性もあります。非常用電源があれば放送できますが、先生方がそのことを知らない場合が多いと言われています。そのため、校内放送を使わなくても避難できるような訓練を実施しておく必要があります。
そして、大きな地震には必ず余震が伴うと言われています。校庭への移動途中の階段で余震が発生して、群衆雪崩となったら、一番下の子どもは圧死する可能性があります。津波が来るので高台への避難の必要性がある場合等を除き、校庭が液状化している場合もあり、校庭に集まるのが合理的な理由があるかどうかを検討する必要もあります。先述の学校安全部会で、今、何のリスクから避難しようとしているのかを検討して、子どもたちが危険を予測し主体的に回避するためのショート訓練や、様々な場面を想定した実践的な訓練を行う必要があるという意見が出されました。(参考①)

令和4年3月25日に、「第3次学校安全の推進に関する計画」(以下、「第3次計画」という)が閣議決定されました。(参考②)この計画は、学校保健安全法に基づき、各学校における安全に係る取組を総合的かつ効果的に推進するために国が策定したもので、令和4年度から令和8年度の5年間を計画年度としています。第3次計画の策定に向けて、中央教育審議会の学校安全部会では、学校で作成している学校安全計画や危機管理マニュアルの実効性を高めていく必要性が指摘されました。

第3次計画では、学校安全計画や危機管理マニュアルを見直すためのPDCAサイクルを構築し、学校安全の実効性を高めることをはじめ、地域の多様な主体と密接に連携・協働し子どもの視点を加えた安全対策を推進すること、実践的・実効的な安全教育の推進、地域の災害リスクを踏まえた実践的な防災教育や訓練の実施などの基本的な方向性が示されています。そして、具体的にどのようなことに取り組んでいけばよいのか、国、学校設置者、学校、家庭・地域・関係機関等のそれぞれが果たすべき役割や具体の内容ついて述べられています。

例えば重大事故防止には、ヒヤリハット事例の活用が重要であると言われています。しかし、学校ではヒヤリハット事例の活用の意識が低く、重大な学校事故を調査すると、事故発生前に危険なことが起きているケースが数多くあります。第3次計画では、自校はもちろん他校で起きた事例も自校で起きえることを想定した校内研修を行うことが述べられています。また、児童生徒が校内生活で、ヒヤリハットした体験を、タブレット端末から危険個所やその原因、改善策を記録し、校内マップで一覧にして「見える化」して、安全教育の教材や安全管理のデータとして活用しているところもあります。

学校では、既に災害や不審者に対応した訓練をはじめ、安全点検、交通安全教室、保健体育や理科、社会、学級活動等の各教科等において安全に関する指導を行っています。大切なことは、それらの取組が子どもたちの事故やケガの防止に役立っているのか、実効性あるものになっているかという点です。子どもたちが生き生きとして安心して学校生活を送ることができるようにしていくには、子どもたちの安全を保障することが不可欠です。
そして、子どもたちには、いかなる状況下でも自らの命を守り抜くとともに、安全で安心な生活や社会を実現するために、主体的に行動する態度を育成していくことが大切です。文部科学省や各教育委員会等から参考となる資料がたくさん出ています。(参考③)これらを参考に学校安全の実効性が高まるよう、ぜひ自校の取り組みを見直してみてください。

参考