NITSニュース第208号 令和5年2月10日

先生ひとりでなく、みんなで不登校の子どもを支える

認定NPO法人カタリバ 代表理事 今村久美

クラスに不登校生徒がいるのが当たり前の時代

「クラスの不登校の生徒、どう支えたらいいんだろう……?」「子どもにも保護者にも嫌がられているようだし、どう働きかけたら……」
そんな悩みを持つ先生も、増えているのではないでしょうか。

2021年度、41万人の小・中学生が年間30日以上学校を休んでおり、そのうち「不登校」は約24万人。前年度から約5万人の増加となり、「不登校」は9年連続で増加を続けています。
不登校はもはや、重大な社会問題となりつつあります。

5年以上不登校で、プリントを見るのも辛かった子

私が代表を務めるNPOカタリバでは、2016年から島根県雲南市からの委託を受け、教育支援センター「おんせんキャンパス」を運営してきました。
また、2021年からはメタバースで子どもと保護者を支える不登校支援プログラム「room-K」を始めました。子ども・保護者・学校と相談しながら、個別支援計画を組み、伴走しています。

room-Kに参加する中2のKくん。母子家庭で、長期入院中の姉がいるご家庭で育ち、学校へは5年以上通っていない状態でした。母親は長女の入院費を稼ぐために3か所で仕事をかけ持ちし、Kくんも姉に付き添うなど、家族のケアもしていました。
学校とのつながりは、2~3か月に一度お便りを受け取る程度。Kくんは学校に行けない罪悪感もあり、プリントを見るのも辛い状態でした。学習用タブレット端末も配られたけれど、埃をかぶっていたそうです。
「学校に迷惑をかけているんだろうな」そんなKくんの思いが、学校への連絡をしにくくさせていました。

オンラインの三者面談を機に、週3回の別室登校ができるように

room-Kでは、個別支援計画をたてる支援計画コーディネーター(以下支援計画CN)と、お兄さんお姉さん的に関わるメンターがタッグを組みながら、親子に伴走します。Kくんには、元中学教員の支援計画CNと、大学生のメンターがつきました。
Kくんは、学校には行けなくても、オンラインでメンターと会うことが楽しみなよう。初めは雑談をするのがやっとでしたが、徐々に、高校進学の不安や将来への希望も話題になるようになりました。
支援計画CNは、月に1回、母親と面談しつつ、必要に応じて学校にもその状況を共有しました。

Kくんが中3の夏。学校の担任の先生、Kくん、そして大学生メンターと、3人でのオンライン面談を実施しました。
初めは顔を合わせたことがない担任と話すことに緊張していたKくんも、メンターの同席で気持ちがほぐれたのか、笑顔を見せ、近況を話しました。先生もほっとしていた様子だったそうです。また、校長先生が、オンラインでのプログラム参加を出席扱いとしてくれたのも、大きなことでした。

学校との接点が増えたことでKくんも保護者も安心し、「高校進学に備えて、もう一度、通学に慣れたい」と、週3回の別室登校に取り組むようになりました。教室で授業を受けるのは難しいものの、学校にパソコンを持参してカタリバのプログラムにオンラインで参加し、担任の先生がその様子に声を掛けてくれることが嬉しいようです。学校とつながってからは、メタバースの中でも英語や数学などの学習プログラムに積極的に参加するようになりました。

先生も、ケアをひとりで抱えなくていい

2月8日に「不登校ー親子のための教科書」という本を出しました。
”親子の”というタイトルですが、先生たちにこそ届いたらいいなという思いで書きました。
「ひとりで抱えなくて大丈夫です」。私たちは保護者の方々にそうした声を掛けますが、先生たちに対してもその言葉が必要なのではないか——Kくんのケースからも、私はそんな風に感じています。

学校や担任の先生だけで困難な背景を持つ子どもをケアしようとするのではなく、さまざまなリソースを組み合わせながら、みんなで子どもを支えていけるような社会をどう実現していくか。ぜひみなさんとも一緒に考えていければと思います。