NITSニュース第207号 令和5年1月27日

インクルーシブ教育システムの推進

FR教育臨床研究所 所長 花輪敏男

昨年9月、本稿のテーマにも関連する衝撃的なニュースが飛び込んできました。国連の障害者権利委員会からの「日本の特別支援教育はインクルーシブなシステムになっていない」という勧告です。報告書によれば「日本では障害のある児童生徒が、特別支援学級や特別支援学校に分離されている。これは障害者に対する差別である」と指摘しているのです。しかし、決して特別支援教育の内容が不十分と言っているわけではないので、誤解のないようにお願いいたします。

例えば、知的障害特別支援学級では、「通常の教育課程の履修が困難」なために、「本人に合った特別な教育課程」を組んでいます。それをインクルーシブ教育と称して、ただ一緒にするだけでは、大部分の授業内容が理解できないまま、空間を共有しているだけの状態になってしまいます。これでは「教育ネグレクト」と言わざるを得ないのではないでしょうか。

インクルーシブ教育としては、通級の制度が理にかなっているので、日本においても、将来は特別支援学級を廃止し、通級制度へ変えようという考えも出てきています。例えば、現在の知的障害特別支援学級を例に考えてみましょう。仮に特別支援学級で週18時間学習し、通常の学級で週7時間交流学習をしていたとしましょう。これを在籍は皆と一緒の学級にし、週18時間通級するという形に変えていくのです。つまり教育課程は実質変更しないままということになります。将来はこのような「非常に柔軟な通級制度」に変わっていくはずです。もちろんこのことの実現のためには、現行の標準法による教員の配当を児童生徒の「人数」に対してではなく、「指導時数」に対して行われるよう変えていかねばならないという大きな問題があります。これらのことは、文部科学省も十分検討していると思われます。

特別支援学校は、当分の間現在のシステムでいくほかないであろうと思われますが、将来的には、視覚障害と聴覚障害については、地域の学校に専門性のある教員と施設・設備を配置して、インクルーシブ教育の実現に向かうことでしょう。知的障害特別支援学校は、自宅から通えるように、地域に小規模な学校を数多く設置すること、スクールバスの充実を図ること等が現実的な対応だと思われます。

現在の法律の範囲内では、①通常の学級に在籍している発達障害のある児童生徒に対する「合理的配慮」の保障、②通級指導教室の充実、③交流及び共同学習の充実、④特別支援学校においては「居住地学校との交流」の拡大・発展、これらを充実させていくことに尽きるのではないかと思っています。