NITSニュース第202号 令和4年11月11日

道徳教育のマネジメント

文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官/国立教育政策研究所教育課程研究センター 教育課程調査官 浅見哲也

全教育活動を通じて行う道徳教育は、よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標としています。では、実際に先生方は、様々な教育活動の中でどのように道徳性を養う指導をされているでしょうか。

例えば、小学校で行う運動会を例に考えてみると、子供たちに様々な指導をしています。「最後まで諦めずに力を出し切りましょう」という指導は、道徳の内容の〔希望と勇気、努力と強い意志〕に関わる指導です。これだけではありません。「友達と協力し、演技を成功させましょう」という〔友情、信頼〕に関わる指導も行っています。「競技ではルールを守りましょう」と言えば、〔規則の尊重〕、「校庭はみんなで使うところです。ゴミは必ず持ち帰りましょう」と言えば、〔勤労、公共の精神〕の指導となります。
こういった指導をされている時に、道徳科の内容項目を意識しながら指導されている教師はどれくらいいるのでしょうか。そういう私もそこまで意識して指導はしていなかったように思います。

このほかにも、例えば、年度当初は、「せっかく同じクラスになったのですから、皆、協力し合って仲良くしましょうね」と指導します。これは道徳の内容の〔よりよい学校生活、集団生活の充実〕に関わっています。「友達同士仲良くしましょうね」という指導は〔友情、信頼〕、友達同士のトラブルにおいて「自分が同じことをされたら、どう思うか考えてみようよ」という指導は〔公正・公平、社会正義〕、教科等の授業中に「違う立場の人の話も聞いてみようよ」と指導すれば〔相互理解、寛容〕に関わります。おそらくこのような指導を多くの先生方が日常生活の中でされているのではないでしょうか。では、こうした日常の指導が、いじめの防止に繋がっているという意識はどれだけあったのでしょうか。

運動会での指導やいじめの防止に関わる指導を例に挙げてみましたが、学校では様々な教育活動の中で子供たちに指導をしています。こうした学校の教育活動の中での指導で道徳教育に関わらないことは一つとしてありません。何を指導しても道徳教育になりますから、全教育活動を通じて行う道徳教育の指導をしていない教師は一人もいないと思います。だからこそ、何から指導していけばよいのかが分かりにくいのも道徳教育なのかもしれません。おそらく、全ての教師がしている多くの道徳教育に関わる指導は、その場その場での指導であって、バラバラのままになっているのかもしれません。そこで、様々な教育活動の中での道徳教育に関わる指導をより効果的に、そして、分かりやすく推進することがとても重要になってきます。

では、分かりやすく道徳教育を推進するためには、どのようにすればよいのでしょうか。
例えば、学校が主体的に子供や地域の実態など、様々な事項を的確に把握して、育てたい子供像を明確にし、目標を設定して計画を立て、教職員が共通の認識のもとに共通の指導ができるようにします。ここに、道徳教育のカリキュラム・マネジメントに努めることが必要になってきます。

校長先生、そして、道徳教育推進教師のリーダーシップのもとに、学校独自の特色のある道徳教育を展開するためにも、学校の教育目標の具現化を図り、目指す子供像を設定し、道徳の内容項目の中でも、特に重点的に指導すべき内容項目を明らかにして、全教育活動の中で機会を逃さずに指導できるようにする。そのための道徳教育の全体計画、その具体的な取組を示した別葉、道徳科の授業を行うための、内容項目の配当時間数や主題配列を工夫した道徳科年間指導計画、子供の実態を把握した学習指導案を作成していくことが重要であり、こうした指導計画の基に、全教職員が共通理解を図って指導する。これが学校の組織力となって効果を発揮することになります。

道徳教育のマネジメントにより、全教育活動を通じて全教職員が一つの方向に向かって指導ができる体制が整っているかどうか、改めて、見つめ直してみてはいかがでしょうか。