NITSニュース第197号 令和4年9月2日

学校と地域でつくる学び

国立教育政策研究所 生涯学習政策研究部総括研究官 志々田まなみ

先日大学の講義で、二十歳前後の大学生にこんな質問をしてみました。
「リュックを背負い、友達と楽しそうにおしゃべりをしながら下校する小学生を見かけたとします。あなたは、この子たちに『遠足に行ってきたの? どこに行ったの? 楽しかった?』などと声を掛けてみたいと思いますか?」すると、ほぼ全員の大学生が、声を掛けてみたいと答えました。
そこでさらに、「では、あなたの地元で、実際に小学生に声を掛けることができますか?」と尋ねてみたところ、ほぼ全員から、「不審者だと思われそうで、怖くてできない」「子供をびっくりさせたり、親が不安に感じたりするだろうから、したくない」という返事がかえってきました。

いまや、こんな年齢の近い若者たちですら、近所の子供に気軽に声を掛けることをためらう時代なのです。現行の学習指導要領が目指している、学校が地域とともに新たな学びをつくりあげていくパートナーを見つけることの難しさや、地域が子供や学校に関わることへの「敷居の高さ」を痛感した出来事でした。

私はここ10年あまり地域学校協働活動を研究のフィールドとしてきました。地域学校協働活動は、登下校の見守りや校内環境の整備、ふるさと学習等のための学校支援や、放課後等の子供の居場所づくりをおこなう地域住民のボランティア活動のことだとよく誤解されがちです。それらは間違いとまでは言いませんが、全体像のほんの一端でしかありません。地域学校協働活動のメインは、あらゆる世代、教員を含む様々な立場の人々が、子供の成長についてともに学び、考え、必要な活動をつくるために協働できるつながりづくり(地域づくり)だと捉えています。文部科学省はこれを「学校を核とした地域づくり」と呼んでもいます。このような子供の学びを主軸とした地域の大人同士のネットワークが、変化の激しい時代を生き抜く力を育む学校づくりの要件になっていくのではないか、そんな課題意識を持って研究を続けています。

学校と地域で学びをつくっていくためには、学校外から高度な専門家や著名な実践家を招き、現場を巻き込んだ実践活動を展開していくような、そんな大がかりなプロジェクトや特別なコネクションが必須なのではないかと、つい考えてしまいがちです。しかし、この分野のけん引者となった教員にインタビューをしてみたところ、その多くから、多様な価値や経験を有する地元の方々との率直な対話の中で、長年の自らの思い込みやこだわりに気づいたことが、重要な転機となったという答えが返ってきました。

近年、これまでに学んだ知識や経験、修得した技術を振り返り、無自覚的に身につけた思考や判断のクセを取り除くアンラーン(unlearn)という概念が注目されています。私が聞き取ってきた教員としての重要な転機は、それとよく似ている経験だと感じます。新しい学びをインプットする前に、アンラーンを試みることも重要な学びなのかもしれません。