NITSニュース第195号 令和4年8月5日

『静かな』取組の共有

国立教育政策研究所 初等中等教育研究部 部長 藤原文雄

2015年12月にとりまとめられた中央教育審議会「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)」を受け、2017年3月に学校教育法が一部改正され、学校事務職員の職務規定は「事務に従事する」から「事務をつかさどる」へと変更されました。役立ち方は違いますが、教員と同等レベルの職務を担う職であることが明確化されたのです。

改正の際の通知においては、「学校組織における唯一の総務・財務等に通じる専門職である事務職員の職務を見直すことにより、管理職や他の教職員との適切な業務の連携・分担の下、その専門性を生かして学校の事務を一定の責任をもって自己の担任事項として処理することとし、より主体的・積極的に校務運営に参画することを目指すものである。」と改正の趣旨が説明されました。勤務校の教育及び学校運営を理解した学校事務のマネジメントに加え、積極的に意見を提案し主導することが期待されるようになりました。

こうした法改正は、子供をめぐる教育課題の複雑化・困難化に対応したものであり、児童生徒の現在と未来の幸せ実現のための学校組織力を高めることが狙いです。校長であれ、教員であれ、学校事務職員であれ、全ての学校職員は勤務校の児童生徒の現在と未来の幸せ実現のために存在します。もちろん、専門性が違い、ものの見方・考え方が異なるため、時には異なった職種同士で違和感を覚えたり、葛藤が顕在化したりすることもありますが、それは一概に否定されるものではありません。大切なことは、児童生徒の現在と未来の幸せ実現という目的の傘の下で適切な距離をとり、仲良くけんかをすることではないでしょうか。

こうした児童生徒の現在と未来の幸せ実現を目指した学校事務職員の校務運営参画の実践は、県立学校においても「静かに」取り組まれています。今年度の中央研修に参加した県立学校の学校事務職員からは、「情報教育環境整備のため、情報委員会を組織することを提案した。委員会では教員側の求めるものや考えを、事務室側は予算管理や入札執行についての考えを互いに共有することで、制限のある中でもより良いものを整備しようと意識が高まった。」「令和2年度コロナ対策関連では、教職員が一丸となって取り組んだ。臨時の運営委員会で必要な物品について協議し予算計画書を作成、納品後は教室へ教員と共に設置、特にICT担当教員とは常に協議をした。また、支援員についても運営委員から意見を集約し、保健室業務の補助が必要とのことで、定年退職した養護教諭を採用し感染対策を進めた。」など、多くの豊かな校務運営参画の実践が紹介されました。

一人一台端末の整備や新型コロナウイルス感染症対策など、緊急に対応が求められた時期には、多様な学校職員の協働が実現し、学校事務職員の校務運営参画も拡大したようです。

これまで、県立学校ではこうした挑戦を言葉にして発信するという文化は希薄で、「静かな」取組と言い得るものでした。それは、県職員としての奥ゆかしさの反映かもしれませんが、今後は、教職員支援機構をハブとして「静かな」取組が共有され、新たな取組が拡がっていくことを楽しみにしています。