NITSニュース第193号 令和4年7月8日

自己肯定感と学習意欲(シリーズ「『学ぶ』を教えるために」第1回)

独立行政法人教職員支援機構 理事長 荒瀬克己

どんなことができる子どもに育ってほしいか。学校教育の内容について示す学習指導要領の前文はまず、自分のよさや可能性を認識できること、つまり、自己肯定感を持つことについて述べている。他者の尊重、困難の克服、豊かな人生の構築、よりよい社会の創造も、自己肯定感から始まると考えるからだろう。

自己肯定感を持つには周囲のおとなの存在が欠かせない。「自分はたいせつなひとりだ」「いまの自分がずっとそのままではなく、人間は学ぶことを通して成長できる」「目の前の世界がずっとそのままではなく、自分が動けば世界は変わる」といったことは、自分では気づきにくいからだ。
そこでおとなが、「あなたはだいじなひとり」と子どもの存在を受け容れて、「きっといろいろなことができるようになる。もちろんここにいてくれていいし、困ったときには必ず助けるからね」と丁寧に伝えることが重要になる。
その子自身がよさや可能性に気づけるようにするためには、その子にふさわしい居場所と出番を用意し、自己肯定感を養えるように手立てを講じる誠実な対応が必要だ。

学習意欲は自己肯定感があってこそ表れるが、そもそも誰しも生まれながらに持っているものだ。乳児は回るモビールを目で追い、手が使えるようになると何でも触ろうとし、口に入れて確かめる。そして、言葉を覚えると「なに」「なぜ」と、周りが困るほど頻繁に問いかけるようになる。それは、生きるために外界を認識することが必要だからだろう。
自己肯定感を養うことにより、生来持っている学習意欲を引き出し、主体的に学ぼうとする人に育てる。親以外で子どもの身近にいてその役割を担うおとなが教師だ。

では、教師にはどんな力をどう身に付けていくことが求められるか。教職員支援機構のメンバーとともに、教師の学びについて考えていきたい。

2022年5月15日(日曜日)福井新聞掲載