NITSニュース第192号 令和4年6月24日

『令和の日本型学校教育』はどんな教育相談・生徒指導を可能にするか

常葉大学教育学部 教授 紅林伸幸

令和3年1月に中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~」が公表され、現在我が国の学校現場はそのグランドデザインに基づいて、新たな教育への挑戦を開始しています。

「令和の日本型学校教育」とは、(1)学校教育の質と多様性、包摂性を高めることによる教育の機会均等の実現、(2)チームとしての学校マネジメントの実現、(3)ICTの適切な教育活用の実現、(4)学習経験と学習成果の統合的な学びの実現、(5)リスクを乗り越えた学びの保証、(6)持続的で魅力ある学校教育の実現の6つの方向性を柱として、全ての子供たちの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びの実現を果たそうというものです。この新しい教育への挑戦は、教育相談・生徒指導に2つのことを期待しています。一つは、「令和の日本型学校教育」が目標とする個別最適な学びと協働的な学びの実現を下支えするものとして充実させること、もう一つはその充実を6つの方向性に関わって各学校が主体的、組織的に進めていくことです。

前者について、答申は、個別最適な学びのために,これまで以上に子供の理解に努めることや、個々の理解に基づいてきめ細かい指導・支援すること、子供の自己調整を促すことなどに言及し、協働的な学びに関しては他者を価値ある存在として尊重する態度をベースにすることを指摘しています。また、後者の充実の方法としては、6つの方向性に対応するものとして、ICTの活用による子供一人一人の諸情報の総合的・効率的な活用、安全安心な居場所と身体的・精神的な健康の保障、学校と地域のパートナーシップなどの多くの留意点を例示しています。これは、「令和の日本型学校教育」において、教育相談・生徒指導が全ての子供たちの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びを保証するものとして、これまで以上に重要度を増しているからです。それを実現するために、各学校にできることがいくらでもあることを答申は示唆してくれているのです。

こうした「令和の日本型学校教育」を推進するにあたり想定されている学校の在り方が、チームとしての学校であり、保護者や地域住民が学校運営に参画するコミュニティ・スクールです。そこでは様々な専門職が参画した教育が可能です。すでに配置が進んでいるスクール・カウンセラーやスクール・ソーシャルワーカーだけでなく、より多くの、多様な専門職、多様な人材が参画しやすい状況が整えられつつあります。個別最適化をスローガンで終わらせないためには、そうしたより高度な専門的な知識や技能を持つ人材の力を、積極的に児童生徒理解や学校が直面する諸課題への対応に適切に活用することが求められます。

ただし、「令和の日本型学校教育」がそれ以前のプランと異なるのは、協働的な学びを重視していることです。クラスの友達や学校の仲間、地域の人たちと一緒に活動する中で、他者を尊重し、自身を認められる経験を積み上げ、学びや成長の基盤をつくることが大事なのです。「令和の日本型学校教育」はその目標を具体化するために、6つもの方向性を提示し、そのそれぞれにおいてさらに多岐にわたる取り組みを示唆しています。このことから明らかなように、学校には多様な選択の可能性があります。
成果を上げる企業組織の特性を研究したエイミー・エドモンソン教授は、その要件として「心理的安全性」という概念を抽出し、「安心できること」の重要性を指摘しています。子供が学び、成長する場所の「安心」を保証するものとしては、心理的安全性だけでなく、物理的な安全性や社会的な安全性も必要でしょう。
個々の児童生徒への直接的な支援だけでなく、彼らが安心できる学校、教室、授業をつくる間接的な支援を含めて教育相談・生徒指導なのです。子供の学びと成長のベースとなるそれらを保証するためのプランを主体的に立案し、推進していくことが、各学校には期待されています。

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