NITSニュース第191号 令和4年6月10日

大学生が振り返る職場体験の意義

日本大学文理学部教育学科 教授 望月由起

コロナウィルス感染症の影響により、職場体験の実施に困難を抱える学校が多いと思います。しかし職場体験の意義を感じる生徒は多く、 「有意義な活動だと思う」中学3年生は90%を超えており(国立教育政策研究所2020)、その意義を後々になって感じるような生徒も多くいます。
今回のコラムでは、望月(2021)でも取り上げた「大学生が自身の職場体験を振り返った記録」の一部を紹介します。


Aさんのケース

私は教師になることが夢だったので、小学校に職場体験に行きました。実際に目にしたり、体験をしたりすることで、その職場について深く知ることができました。学校に慣れていないためか、長時間椅子に座っていられなかったり、授業中にいきなり話し出したりしてしまう子もいて大変でした。しかし実際に体験することで、なりたいという気持ちが強くなりました。


Aさんは、希望している職場での大変さも体験した上で、その職業への希望を一層強めた例です。大学の教育学科に進学し、今春より小学校で勤務しています。


Bさんのケース

私は当時、保育士になりたいと思っていた。だから、私は幼稚園に職場体験に行った。実際に行ってみると思っていたものと違ったが、そのおかげで想像力が膨らんだ。実際の業務内容を学んでいく中で、私は幼稚園や保育園の先生よりも学校の先生の方が向いているような気がした。だから、私は現在、教育学科に進学している。恐らくあの職場体験が無ければ、私は保育の専門学校に通っていたことであろう。そう考えると、あの体験は本当に貴重で大切な体験であったと思う。


Bさんも、希望の職場を体験しています。ただしAさんとは異なり、職場体験後に希望する職業を変更した例です。「別の職業の方が向いている」という感覚を得たという点で、職場体験は貴重な機会となっています。


Cさんのケース

私は本屋や図書館での体験を希望したが、人数の問題で行くことができず、先生が選んだ職場へ行くことになった。そこの商品が好きだったわけではないし、接客にも自信がなかったので、はじめはとても不安だった。しかし、やってみるといろいろな発見があって楽しかった。中学生の私にとっては驚くような工夫や知識があり、接客も楽しんで行えた。この体験から、私が将来なりたい職業について何も知らないことに気づいたし、今まで考えていなかった職業にも興味が湧き調べてみる、など貴重な体験となった。


Cさんは希望する職場での体験はできませんでしたが、体験した職業の楽しさや工夫を感じることができた例です。職業への理解不足に気づき、調べることにつながる好機となっています。


Dさんのケース

私は、友達のお母さんが働いている病院で職業体験をした。実際の現場を見ることは貴重な体験で、ドラマで見る理想とは違い、過酷でキラキラした世界ではないことを学んだ。当時の私からすると、職業体験は結構きつくて、教えてくれた看護師さんも仕事で忙しいため、私たちを相手にしてくれる時間はあまりなかった。しかし、本当の社会はこのような世界なのだと知ることができて、自分の将来を考え直すいい機会だった。


特定の職業希望をもって、職場体験をする生徒ばかりではありません。Dさんは特定の職業希望がない状態でしたが、リアルな職業世界を体験することで、自分の将来を考え直す機会となっています。


Eさんのケース

私は○○マルマルで職場体験をしたが、2日でもう働きたくないと感じた。この経験は、今に役立っている。莫大な量の職業から生涯働いていく職業を選ぶ際にまず必要なのは、「働きたくないと思う職業を見つけることだ」と考える。そして、いろいろな職業を見てきたときに、ようやく「天職」というものに出合えるのだと思う。そういった考えを持たせてくれた職場体験は、貴重なキャリア教育であったと今でも感じる。


Eさんも特定の職業希望を持っていませんでしたが、「体験したような職場では働きたくない」と感じた例です。「なぜ、どのような点で働きたくないと感じたのか。どのような状況なら働きたいと思えそうか。」といった自己理解を含めた事後指導が必要なケースですが、自分にとって「働きたくない職場や職業」に気づき、職業選択の在り方を自分なりに考えるに至ったという点で、貴重な機会となっています。

いずれの記録からも、職場体験から得たものが進路選択上の財産となっていることが分かります。近年の状況をふまえると、数日にわたる職場体験先、特に生徒の希望通りの体験先を確保することは難しいと思います。1日のみの体験であっても、生徒の希望通りではない体験先であっても、事前・事後指導をうまく組み合わせながら、有意義な職場体験の機会を提供いただけますよう、よろしくお願いいたします。

参考文献