NITSニュース第121号 令和2年2月21日

学校ビジョンの構築に関するキーワード

兵庫教育大学大学院 教授 浅野良一

組織マネジメント研修は、平成14年度に教職員等中央研修において始まり、以来研修内容や進め方の改訂をしながら今日に至っています。 また、中央研修以外でも指導者養成研修もあり、かなりの先生方が受講されています。

そこで今回のメールマガジンでは、組織マネジメント研修のなかで学校ビジョンの構築に関するキーワードをいくつか紹介し、その意味と使用した経緯などをお話しします。

一点突破・全面展開

学校経営において、取り組みの重点化を示す「重点事項」が大切であることを説明するために使用した毛沢東の言葉です。 当初は「わが全力をもって敵の分力を断つ(A.マハン)」「戦捷の要諦は有形・無形の各種戦闘要素の決勝点に集中発揮せしむるにあり(旧陸軍:作成要務令)」などを使用しましたが、学校に戦争事例は似合わないことと、一点突破の後の動き(全面展開)があるのでこれを使っています。

重点を定めて強みで勝負する

SWOT分析は、もともと企業のマーケティングの手法です。組織マネジメント研修では、それを活用して「学校の特色づくり」を推奨しています。 つまり、学校の内外の強みを活用して、わが校ならではの教育活動に反映させ、その結果、わが校ならではの教育成果に結実させるのです。
前に述べた「重点事項」と「特色(強み)」は、学校ビジョンでの「力の入れどころ」で、企業でいう戦略です。したがって、重点事項もあいまいで、弱みで右往左往していて組織はうまくいくわけがありません。 また、良い点や強みは、自らみつけるものだと思います。先生方は子供のいいとこ見つけやいいとこ探しをするのが上手なはずです。教職員もミドルになったら、「学校のいいとこ見つけ、いいとこ探し」が大事なのではないしょうか。
つまり、組織マネジメントをする上で、経営資源が十分なことはほとんどありません。そこで、「ないものねだり」ではなく、現状の良い点の発見・発掘による「あるもの活かし」が大切なのです。

重点事項の翻訳

ただ、重点事項があるだけでは機能しません。その意味を教職員が理解することが必要です。そこで、教頭やミドルリーダーの「パイプ役」としての働きが求められます。 パイプ役とは、ただ校長の考えの伝達ではなく、若手にもわかるようにかみ砕いて説明することです。教職員が、学校の力点をよく理解しているときは、教職員たちも仕事がしやすいはずです。重点事項の翻訳とは、学校の組織のベクトル合わせなのです。

一般解と特殊解

組織マネジメントには、いつでもどこでも通用するような「唯一最善」の方法である「一般解」は存在しません。そこでわれわれは、学校がおかれた状況の中で、うちの学校でうまくいくやり方「特殊解」を探索しなければならないのです。 つまり、組織マネジメントには、「適・否」はあっても「正・誤」はないのです。

状況の法則

それでは、わが校の特殊解を見つけるためには、何が必要なのでしょうか。そのヒントとして、英国のフォレット女史が言った「状況の法則」があります。 これは、組織における指示命令の非人格化で、「人が指示するから動くのではなく、おかれた状況が私を動かす」という意味です。 つまり、学校のおかれた状況の共有化が、教職員のビジョンの理解・浸透を推進するのです。

ビジョン共有の4つの関所

組織におけるビジョン共有は難しいものです。そこで、その障害となる点を整理し、その対応策を研修では紹介しています。

  1. 論理の関所とは、ビジョンの構成要素の理解があいまいなため、何を共有すればよいのかがわからない状態です。ビジョンの構成要素を共有することで克服できます。
  2. 状況の関所とは、ビジョンが打ち出される背景状況の共有ができていないことにより生じます。これは、前述の状況の法則が参考になります。
  3. 感情の関所とは、ビジョンづくりにあたって、教職員の提案や意見を取り入れる仕組みがないことにより、意欲がわかない状態です。ビジョンづくりへの教職員の参画の重要性は言うまでもありません。
  4. 見通しの関所とは、学校のビジョンが単年度の提示にとどまっていると、その後どのような展開になるかの見通しがもてず、多忙感ややらされ感につながります。3年程度のラフプランを提示してはいかがでしょうか。