NITSニュース第120号 令和2年2月14日
塩竈市防災主任者会・塩竈市立第一中学校内研修会より
塩竃市立第一中学校 校長 身崎裕司
1 「塩竈市防災主任研修会より」
令和2年2月7日(金曜日)に塩竈市内小中学校の防災主任の研修会がありました。そこに会場校である塩竈一中教職員も入り一緒に研修を受けました。 大川小学校事故は、学校管理下にある子どもが犠牲になった事件・事故として戦後最悪の惨事となりました。 その大川小学校の子どもの遺族であり、現在は、名取市立みどり台中学で校長をしている平塚真一郎先生に講師としてお出でいただき話をうかがいました。
大川小学校事故検証報告から
【事故の直接的な要因】
避難開始の意思決定が遅くかつ避難先を河川堤防付近としたことにある。
【背景要因】
学校における防災体制の運営・管理がしっかりとした牽引力を持って進められず、また教職員の知識・経験も十分でないなど、学校現場そのものにかかわる要因
【結論】
子どもたちの尊い命は、救えた命だった。あまりにもわからないことが多い。
「かみあわぬベクトル」「スイスチーズモデル」「『他人事』を『自分事』に」の3点についてお話を伺いました。その中の「かみあわぬベクトル」についてです。
「かみあわぬベクトル」【学校事故裁判における法的視点と感情の狭間】(日本女子大学 坂田仰 教授より)
- 教職員の視点…切迫した状況での決断の中、精一杯努力した。
- 保護者の視点…結果を重視し、子どもが傷ついた、命を落としたという絶望と怒り
- 裁判所の視点…事後的で客観的、後付の「たら」「れば」論、真実の発見という幻想
以上のことから、想定外はなく、全てにおいて最悪を考え想定内としてマニュアル等の整備や避難訓練等を実施することによって、リスクを減らしてゆくとともに、万が一起こった時には迅速な対応ができると考えています。
2 「防災・危機管理の心理」
(1) イギリスの心理学者ジョン・リーチ博士の研究より
突発的に災害や事故の直撃を受けた時、人の取る行動は次の3つに分かれるそうです。
- ①落ち着いて行動できる人…10~15%
- ②我を失って泣き叫ぶ人…15%以下
- ③ショック状態に陥り呆然として何もできない状態になってしまう人…70~75%
大多数の人がショックに陥り、呆然として何もできない状態に陥る「凍り付き症候群」です。 不意に災害や事故に見舞われた時、脱出や避難するチャンスが十分にあるにもかかわらず、避難が遅れて犠牲になる主な要因は、目の前で経験したことのない事象が急激に変化・展開する事について行けず、脳の認知的情報処理機能が混乱し自己コントロールを失ってしまい、身体(行動)が凍りついた状態になって凝結してしまうということです。
(2) 「多数派(集団)同調バイアス」と「正常性バイアス」
「バイアス」…心理学的には「偏見」「先入観」「思い込み」などと定義されています。
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①「多数派(集団)同調バイアス」
過去に経験したことのない出来事が突然身の回りに起こった時に、その周囲に存在する多数の人の行動に左右されてしまうことです。 どうして良いか分からない時、ほかの人と同じ行動を取ることで乗り越えてきた経験があるためです。 つまり、迷った時は周囲の人の動きを探りながら同じ行動を取ることが安全と考える呪縛に、心が支配されてしまうそうです。 -
②「正常性バイアス」
人の心を守る安全装置のひとつで、常に小さな出来事一つ一つに反応していれば心の平穏が保てませんので、心の機能には些細なことで自分に直接影響ないことは、正常の範囲と自動認識する仕組みがあるとのことです。
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2003年2月18日9時13分 韓国地下鉄放火事件
助かった人の証言、煙が充満している車内にいるにもかかわらず「最初は、まさかこんな大変な火災が発生しているとは思わなかった」「みんなじっとしているので自分もじっとしていた」、その後、誰かが「火事だ!」と騒いだので、慌ててガラスを割って逃げて助かった。 -
1980年11月20日15時30分 川治プリンスホテル火災
火災報知器が鳴った時、ある団体は「こんな昼間に火災が起こるはずがない『誤作動』だろう」と、そのままお茶を飲んでいたとのこと。 また、別の団体は、ベルが鳴った直後に、「何かあったんだろう」と、すぐに様子を見に行ったそうです。 すぐに行動を起こした団体は全員助かりました。
(防災システム研究所ホームページより)
人は大変な状況に陥ると、「大丈夫だろう」と思ってしまうことがあります。 児童生徒がけがした時など、その時の本人の状態だけ見て、「たいしたことないだろう」と判断してしまうことがあります。 「本当にその判断良いのか」、最悪を考えることが大切だと考えています。