NITSニュース第97号 令和元年8月16日

単純な引き算ではないタイムマネジメント

帝京大学教育学部 准教授 小入羽秀敬

2016年の教員勤務実態調査では、職位に関係なく学校教員が長時間労働をしていることが明らかになりました。 現在「働き方改革」として様々な取り組みがなされており、タイムマネジメントも重要な取り組みの一つです。

ただ、タイムマネジメントというと、どうしても仕事の効率化や削減による労働時間の圧縮に関心が行きがちです。 もちろん、仕事の効率化は大前提ではあるのですが、それだけではうまくいかないのがタイムマネジメントの難しいところです。 タイムマネジメントは単なる労働時間の削減ではありません。その削減プロセスも非常に重要です。

特に「自分で管理できる時間」をどの程度持てているかがポイントとなってきます。 ここでいう「自分で管理できる」とは、他者に影響されないで自己判断で行える業務に従事している時間のことを指します。 個人の判断で業務の切り上げや効率化を図れない場合、業務が常に他者の状況に左右されるため、結果として労働の長時間化や心理的な疲労蓄積が懸念されます。 そして、教員は児童生徒と接するヒューマンサービスの職業である特性上、どうしても自分で管理できる時間が少なくなってしまう傾向にあります。

まずは、教員の業務内容がタイムマネジメントしづらいものであるという自分の置かれている状況を客観的に把握することが第一歩となります。 その上で、労働時間の削減に向けて何ができるのかを教員、管理職が一緒に考えて行く必要があります。

このときに早めの帰宅「だけ」を管理職が指示するのは簡単です。 確かに早く帰れば一見労働時間は減るように見えますが、実は労働時間以外にも減っていくものがあります。仕事へのモチベーションです。

業務の効率化や削減が教員自身の意思で行われているのか、はとても重要です。 「管理職からの指示で仕方なく」という状況での働き方改革では、数字上の労働時間削減ができたとしても、仕事へのモチベーションも同時に削減してしまっている可能性があります。 教員がモチベーションも維持していくためには、子どもたちと最も近い位置で接している自らの専門性をフルに活かして効率化を図っていく必要があります。

管理職の役割は、労働時間を減らす、というビジョンを学校全体に示すと同時に、教員の考える効率化を実現するためのヒト・モノ・カネの資源配分を差配してサポートするところにあります。 場合によっては、教員からどのように効率化を図りたいのかを傾聴しながら一緒に考えていく必要もあるかもしれません。

効率化に向けた自主的な取り組みは、最初はどうしても時間がかかってしまいます。 特に学校全体をとりまとめる管理職の負担は大きいです。 しかし、このときにかかる時間はあくまで初動コストであって、最初に準備をすれば、後々に良い結果として自分に返ってきます。 教員と管理職が同じ目的を共有して、タイムマネジメントに向けて取り組むことが学校全体の労働時間削減に有効なのではないでしょうか。