NITSニュース第95号 令和元年8月2日

一から考える、コミュニティ・マネジメント

香川大学地域連携・生涯学習センターセンター長 清國祐二

コミュニティ・マネジメントって、一体何なんですか?という質問が聞こえてきそうです。 マネジメントはあくまでも学校内におけるものであり、学校外に対して学校がそのような権限を持ちうるはずがない。 その通りなのですが、時代の流れはどうやらそこにも揺らぎを与えているようです。 まだ、明確に定義されていない、学校の課題としてのコミュニティ・マネジメントについて、一緒に考えてみましょう。

文部科学省の資料を見ると、「地域に開かれた学校」から「地域とともにある学校」へとスローガンが変わりました。 これも何がどう変わったのでしょうか。 一般的な理解としては、前者は「地域に開かれ」るわけですから、学校が垣根を低くして地域を迎え入れる、ベクトルの向きは地域から学校へとなるでしょう。 一方、後者は「地域とともにある」わけですから、学校と地域は思いや願いを共有し、自然な形で寄り添っているのでしょう。 学校が、あるいは地域が、前へ歩み出さなければならなくなれば、ともに考え、ベクトル合わせをしてともに進むことになるのでしょう。

コミュニティ・スクール(学校運営協議会を導入した学校:以下、CSと略記)が広がりを見せ、学校と地域との協働が進展しつつあるようです。平成30年4月現在、5,432校(全学校の14.7%)となっています。 「学校と地域の声を積極的に生かし、地域と一体となって特色ある学校づくりを進め」るための基盤が整いつつあるようです。 しかし、油断は禁物です。努力義務から義務化へと向かう圧力の中で移行する学校と地域では、形式的な組織づくりや協議の形骸化にならないとは限りません。 準備段階での学校と地域との意思疎通を密にして、合意形成を丁寧に行うことが肝要です。

「社会に開かれた教育課程」が今回の学習指導要領の中心に据えられています。 予測のつかない困難な社会を生き抜くための力を育むには、未来の創り手・社会の支え手としての資質と能力を育まなければならない、それは学校の力だけでは達成できず、よってすでに閉塞感漂う現実社会とタッグを組んで教育課程の中であらかじめ未来と子供とをつないでおきましょう、といったところでしょうか。 言うまでもないことですが、この新たな課題は従来の教員の職能のみでは対応しきれないことでしょう。

もうひとつ、地域の持続可能性という切実な課題が注目を集めるようになってきました。 限界集落という局所的な課題から、消滅自治体という行政区の課題へと、深刻さが増しています。 行財政改革の一環として実施された平成の市町村合併は、老朽化する学校の建て替え問題や学校の適正規模化の議論とともに、学校を急激な統廃合へと導くことになりました。

小学校の廃校数で言うと、合併以前の平成3年(24,798校)から平成13年(24,106校)の10年間で692校(基準値とする)であったのに対し、合併後の平成23年(21,713校)までの10年間では2,393校と基準値の3.5倍に跳ね上がっています。 平成31年(19,892校)までの8年間でも1,821校と基準値の2.6倍です。 想定されていたとはいえ、とても大きな数字です。この数字と比例するかのように、地方の衰退は進行しています。

コミュニティ・マネジメントのひとつの側面は、衰退し疲弊する地域とともに育つ子供に何を伝えるか、ということではないかと思います。 東井義雄の『村を育てる学力』とは時代背景が大きく異なりますが、地域の意思を引き出しながら、学校が子供と向き合う必要があるのではないかと考えるに至りました。 この地域の意思を引き出すという行為があって初めてコミュニティ・マネジメントが見えてくるのだろうと現時点では思っています。

もちろん、人口の集中する都市部におけるコミュニティ・マネジメントの姿形は異なると想定されますが、突き詰めれば根っこは同じではないかとも予測しています。 コミュニティ・マネジメントと言う以上、学校の実態からかけ離れた絵空事や言葉遊びであってはならないでしょう。 具体的な学校の役割、地域の役割を導き出す必要があるでしょう。

しかし、まだ理路整然と皆様にお伝えできるほど、私の中で熟してはおりません。 ひとつ確信できているのは、これまで光を当ててこなかった学校と地域との関係性がここから紡がれていくだろうということです。 これから調査研究等でもお世話になろうかと思いますが、暖かいご支援ご協力をお願いいたします。