NITSニュース第89号 令和元年6月21日

体力向上マネジメント

桐蔭横浜大学スポーツ健康政策学部 佐藤豊

「知・徳・体」のバランス良く育てることが、教育基本法が求める教育の一丁目一番地と言えます。 この前提のもと、学校教育法が規定した「知識・技能」「思考・判断・表現」「学びに向かう力・人間性」を育成することが求められていますが、現状はいかがでしょうか。

主体的・対話的で深い学び、教科と教科をつなぐカリキュラム・マネジメント、生徒の主体性や自己肯定感を育てる指導、ICT活用など喫緊の課題に対応した取り組みが多いのではないでしょうか。 これらの取り組み一つ一つは、新学習指導要領の改訂に伴い、大切な視点だと思いますが、「何を身につけるのか」の論議が、確かな学力のみに集約されてしまうと、「確かな学力」「豊かな人間性」「健やかな体」という本来の教育の柱が薄れてしまう危険性も感じます。 体力向上マネジメント研修を通して、教育の原点の一つである「健やかな体」の育成にどのように取り組むのかを、参加された皆様から、改めて発信していただけたらと思います。

「体力向上」と聞くと、つい「向上させる」「取り組ませる」というイメージが強いと思います。 体育の領域では、必要充足、欲求充足という分類の考え方がありました。例えば、かみ砕いて説明すると、体つくり運動や体育理論、保健は、必要充足となり、体育の学習上、必要なので取り上げる領域であり、あまり楽しくないかもしれないけど、健康な心身の育成と生涯スポーツ実践には欠かせない必須のミネラルみたいなものだから、しっかり食べましょう(必要充足)という考え方です。

一方、球技をはじめ競争的な要素、陸上や器械運動のような達成的な要素のある領域は、そのスポーツ自体のもつ魅力があり、子供たちから見ると自然に食べたくなる(取り組みたくなる)領域で、オムライスやカレー、焼き肉みたいなものなので欲求充足の分類としましょう。 ただ、食べたいものだけ食べていると、健康的ではないよね?という考え方です。理屈はわかるけど、トマトやニンジンは好きではないという子供に、食べることを無理強いしても、一段と嫌いになってしまうということから、料理なら、煮込んだり、すりつぶしたり、味を足したりして食べやすい工夫がなされています。

それぞれの分類でよいのだろうかという論議も近年では言われてきています。必要充足も満たす欲求充足領域の進め方、欲求充足も満たす必要充足領域の進め方です。 体力向上で考えると、必要だからやるのではなく、楽しく体力を高める、無理なく高める、結果として高まった、高まることが楽しいといった実感を得られるための様々な工夫が大切なのかもしれませんね。

その具体的な方策のヒントが今回の研修の中にたくさんあったのではないでしょうか。 「体力向上」を教育課程上の位置づけを検討することや、学校・家庭・地域の連携を図ること、教科間や単元と単元の連携を図ることを通して、授業と実社会・実生活をつなぎ、学習成果が可視化されることで、より取り組みたくなるためのアプローチなのだと思います。 今回の研修成果を生かし、子供が自ら取り組みたくなる「体力向上」の取り組みが広がることを期待しています。