NITSニュース第82号 令和元年4月26日

育成指標の機能と活用

独立行政法人教職員支援機構 次世代教育推進センター長 大杉昭英

育成指標(以下「指標」と略記)の機能について、まず、次の3つの事例から考えてみたい。

第1はビールの話である。これまで何回かドイツを訪れたことがあるが、ビールの本場なのでつい大きなジョッキで飲んでしまう。ところが、よくよく見るとジョッキには目盛りが付けられている。通訳の人に聞くと、法律でビールやジュースの容器には全て目盛りが入っているそうだ。そして、目盛りまでがビールでそれより上に泡があるように注ぐようになっているという。厳格な基準にしたがってビールが提供されていることに驚く。
そもそもドイツでは、ビールとは大麦麦芽とホップ、水を使ったものであり、それ以外の原料が入ったものはビールではないという、1516年に制定された「ビール純粋令」が現在まで適用されているお国柄である。

第2は、最近ビジネスの世界でよく使われる言葉、マイルストーンである。これは、プロジェクトなど業務の進行管理のために節目に当たるところに設定するもので、もとは道路などの距離を表す標識だという。マイルストーンは到達点に向かうまでに達成すべきものを設定し、その実現状況を鑑みて最終到達点までの進行を調整するのだそうだ。

第3は、箱根駅伝で昨年まで連続優勝していた大学の練習方法である。この大学では、1年間をいくつかの期に分け、それぞれ達成ポイントを明確にし、それについて選手の理解を深めさせた上で選手自身に自分の状況に応じた目標を設定させるなど、選手による目標管理を徹底させて練習を行っているようだ。

平成29年度に公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標が策定されたが、この指標の機能は、上記の3事例では、選手が各期の達成水準を明確化することで目標を実現することを示している駅伝の練習例に近いと思われるが、望ましい到達点に向かう際の通過点を明確にしてゆくマイルストーンや、基準(スタンダード)の設定により質保障を行っているドイツのビールジョッキなどの機能を併せ持つものと考えられ、教員等の成長の目安となるとともに、これからの学校教育の質を維持向上させる働きを持つものと期待されているところである。

教職員支援機構が行った平成30年度末のアンケート調査(平成31年3月実施・現在集計中)では、指標をセンターの研修講座受講の際に参考となるようにしている、校内研修の計画・実施の際に参考となるようにしている、キャリアアップすを図るための目標設定の際に参考となるようにしているなど様々な活用例が挙げられており、教員の成長支援体制が構築されつつあることが明らかになっている。

今後、こうした取組が進められ、各教育委員会で課題を明確化し指標のさらなる見直し・改善が進むことを期待したい。