NITSニュース第50号 平成30年7月20日

災害から生き抜く力を身に付けるために

岩手大学 准教授 森本晋也

この度の大阪北部地震、西日本豪雨災害により被害にあわれた皆様方に、心よりお見舞い申し上げます。

今回のテーマは、災害安全です。自然災害は、いつ、どこで起こるのか分かりません。だからこそ、普段からの防災教育が重要です。いざというときに自ら情報を取集し、的確に判断し、行動選択していくことができる力を身に付けておかなければなりません。「主体的に行動する態度」を育成するためには、どのような防災教育を行えばよいのか、留意点をいくつか紹介します。

1 「自他の生命の尊重」を基盤とする。

何よりも大切なのは、生命です。防災教育は、自分の命、みんなの命を守るための学習であるということを基盤において進めていくことが大切です。学校安全指導者養成研修を受講された先生が、「岐阜県では、避難訓練のことを『命を守る訓練』と言います。全国共通の言葉だと思っていました」と教えてくれました。訓練とは何か、その真の意味を端的に表していてとてもいい呼び方だと思いました。

また、いかに「自助」が大切さであるかを再認識しておくことも大切です。自分で自分の身を守ることができれば、自分が助ける側になれます。

さらに、自分への支援を、他の必要な人にまわすことができます。「自助」をしっかりするだけで、「共助」「公助」の広がりにつながります。児童生徒に、自分の身を自分で守ることの重みをしっかり自覚させるだけでも防災の学習になります。

2 自分ごと、我がこととして、災害を捉える。

災害に関することは、どうしても他人事として捉えがちです。児童生徒が防災の学習において、災害を自分ごと、我がこととして捉えることができるようにするためには、どのようにすればよいかでしょうか。

例えば、地震発生時の危険予測や身の守り方についての学習では、自分たちが教室で勉強している、掃除をしている、給食の配膳をしているなど、自分たちが映っている写真を教材にするだけでも効果が違ってきます。

また、地域の災害のリスクや歴史を取り上げることも有効です。自分たちの身にどのような危険が及ぶのかを実感を持って学習することが大切です。

3 リアリティをもって学習する。

防災の学習では、リアリティを持って学習することも大切です。例えば、映像資料を活用して学習する方法も効果的です。津波や大雨による水の威力について、実験映像を活用して学習する。震度7の直下型の地震や土石流、土砂崩れ、大雨による洪水など、記録されている実際の映像を活用して学習すると効果的です。

また、大雨の降雨を体験する、津波や大雨による水の高さを校舎などに示し下から眺めて体感する、車と競争して津波の速さを体感する、起震車を使って揺れを体感するなどの学習方法もあります。

さらに、DIG (Disaster、Imagination、Game) の手法を使って、地域で災害が発生したら地域にどのような被害がでるのかをイメージし、地域の災害発生時における強みや弱みを把握しておく学習も効果的です。DIGの学習後、実際に地域をフィールドワークして、自分の目で被害のあったところを確かめたり、地域の人に過去のことを聞いたりする学習を行えば、より実感がわき、さらに地域の防災上の課題の発見にもつながります。探究的な学習になります。

4 危機をイメージして、状況を判断する。

実際に災害が起きたらどのように対応すればよいのかをシミュレーションする学習も大切です。図上訓練、気象庁の大雨ワークショップ、HUGなど様々な方法があります。台風や大雨などの気象情報が付与され、どのように対応していくかを考えます。地域や家庭の実情なども踏まえながら対応を考えます。

そのとき、なぜそのように判断したのか、もっと適切な方法はないのか、しっかり考えさせることがポイントです。みんなでいろいろな考えを出し合って考えさせることが、いざという時の判断力の育成につながります。

5 「タイムライン」(防災行動計画)を立てる。

「タイムライン」とは、「災害の発生を前提に、防災関係機関が連携して災害時に発生する状況を予め想定し共有した上で、「いつ」、「誰が」、「何をするか」に着目して、 防災行動とその実施主体を時系列で整理した計画をいう」と定義されています※注1。このタイムラインを、家庭用の「マイ・タイムライン」や「学校版タイムライン」として活用することも有効です。

これまで述べてきたDIGや気象庁大雨ワークショップの学習を行った後、実際気象情報や防災情報を踏まえて、防災関係機関の防災行動の中で、自分たちは「いつ」、「何をするのか」を整理する。気象情報や防災情報が発表になったときに、どのように命を守るのかを家族で話し合い行動計画を立てておくと、いざというときの行動につながります。

避難訓練の前後の学習を少し工夫する。理科の自然災害発生のメカニズムを学習するときに地域の災害を取り上げる。社会科のハザードマップの学習の際に地域のものを取り上げる。私たち教師のちょっとした工夫で学習効果は大きく違ってきます。

今回は、主に学校での学習方法の留意点を中心に紹介しましたが、防災教育は、家庭や地域とともに行うことが大切です。自宅の家具固定の状況を調べる、家庭や地域の方々とともに「マイ・タイムライン」を作成するなど工夫してみるのも良いでしょう。

児童生徒は、これからの人生で災害に遭う確率はとても高いです。私たち教師がどれだけ危機感や必要感を持つことができるかが大きな鍵となってきます。