NITSニュース第42号 平成30年5月25日

「特別の教科 道徳」の充実に向けて

畿央大学 教授 島恒生

「特別の教科 道徳」(以下、道徳科という。)が、小学校でスタートしました。中学校もあと1年でスタートです。

学校現場では、週1時間の道徳科の授業がきちんと確保され、チームとなって取り組む体制も作られるようになってきました。

また、多様な指導方法も試みられています。ただし、その授業が、「考え、議論する道徳」として、「主体的・対話的で深い学び」を先取りした授業となっているかどうかは、これからの実践の積み重ねと深まりに係っているのではないでしょうか。分かり切ったことを言わせたり書かせたりする授業や登場人物の心情理解のみに偏る授業を乗り越えた、子どもたちにとって魅力ある道徳科の授業の実現です。そのためのポイントを挙げてみました。

1 「道徳性」を養うことが目標!

道徳科は、道徳的判断力、心情、実践意欲と態度を育て、「道徳性」を養う時間です。「道徳性」は、日常生活や今後出会うであろう様々な場面や状況において、適切な行為を主体的に選択し、実践できる「内面的資質」です。行いや行動そのものではありません。それを支える見方や感じ方、考え方であり、これを広げ、深めることで、主体的に判断し行動する「自立」を目指すものです。行いや行動に終始した授業や読解に留まる授業であってはならないのです。

2 プラス志向の発想を!

これまでは、教師がひたすらしゃべる伝達型の授業に陥りがちでした。その原因のひとつが、マイナス志向の発想です。子どもたちには豊かな心が欠けているから教えよう、身に付けさせようという指導です。学校の道徳教育重点目標も、足りないから、欠けているからの発想で設定していませんか。これでは当然、伝達型になります。
プラス志向の発想に変えましょう。子どもたちが、自分の心の中にある豊かな心を自覚できるようにするのです。元来、子どもたちは、よりよく生きたいと願っています。そして、様々な体験や経験の中で、心を育んでいます。もちろん、人や集団、社会、自然などとの豊かな出会いができるよう、私たちは常に意識しておくことが大切です。そうして育ちつつある自分の心の中にあるダイヤモンドに気付かせるのです。
道徳科の評価も同様です。子どもたちが生き生きと活躍する授業を展開し、一人一人の頑張りや成長を見取り、伝え、励ますのです。それは、「成績」ではありません。

3 学習者は子ども!

プラス志向は、学習の主体を子どもと考えることでもあります。子どもたち自身が「あれっ?」「どうして?」と考える授業です。子どもたちが頭の中をフル回転させ、友達と考え合い、自らを問い、深い納得と発見の生まれる授業です。思わず考えたくなる質の高い「問い」や友達の考えに関心を寄せる「集団づくり」が求められます。そして、それが「必然性のある授業」を生み出し、子どもたちに道徳性を育てるのです。

4 発達の段階等を考えた授業づくり!

道徳科の授業の充実のためには、発達の段階等を考えた「ねらい」がとても重要です。これまでは、「友情」「礼儀」などと、大まかな捉え方で進められがちでした。そのため、行いや行動に終始した授業や分かり切った授業になりがちでした。
しかし、発達の段階が違えば、当然、ねらいも違います。『学習指導要領解説編』や『私たちの道徳』等をよく読み、子どもたちにとって深い学びとなるねらいを立て、授業を展開しましょう。

5 子どもたちに手柄を!

Aさんの発言の最大の理解者は、周りの子どもたちであることが大切です。教師は、「なるほど!そうか、あなたの考えは……なんだね」などと、つい、自分だけが最大の理解者になりがちです。「もう少し詳しく教えて?」「Bさん、うなずいているね。どういうこと?」と、子どもたちの発言を促し、子どもたちに手柄を取らせるのです。
また、書く力を鍛え、自分の考えが持てるようにすることや、友達の考えに関心をもてる集団づくりも大切です。

6 チームとなって、みんなで取り組む!

教師がチームとなり、校内や校区内で積極的に互いの授業を見合いながら力を付けていくことが何より効果的です。主体的・対話的で深い学びは、教師自身にも求められるのです。
子どもたちも含め、みんなで楽しい道徳科の授業を創っていきましょう!