NITSニュース第114号 令和元年12月13日

「移民第二世代」と継承語教育 ―ある文化の担い手として育つ―

東洋大学 教授 斎藤里美

これまで、カナダ、アメリカ、ヨーロッパなど移民を数多く受け入れてきた国々では「移民第二世代」という言葉が広く使われてきました。 「移民第二世代」というのは、親のどちらかは外国で生まれたけれど、本人は今住んでいる国で生まれた人のことです。なぜこのように名付けて着目するのでしょうか。

それは、移民の統合や包摂は、その国生まれの「移民第二世代」が受け入れ社会にとけこんではじめて成功したといえる、という考え方があるからです。 たとえば、2015年にフランスでおきた襲撃事件の実行犯がフランスで生まれ育ったフランス国籍の移民第二世代であったことから、あらためて従来の移民統合政策の成否が問われています。

実際、OECDが2015年に各国の15歳児を対象に行ったPISA調査によると、EU域内では「教師から不公平な扱いを受けたと感じている子ども」の割合は、「移民第一世代」よりも「移民第二世代」のほうが高いことがわかりました。 その国生まれの「移民第二世代」のほうがマイナスの感情を抱くのはどうしてでしょうか。

考えられる要因はいくつかあります。 「移民第二世代」はその国生まれですので、今住んでいる国の言語や文化は、生まれたときからなじんでいると思われがちですが、じつはそうでもありません。 家庭での使用言語が親の母語であったり、同じ文化やエスニシティをもつ人々が地域に集住していたりすると熟達の機会が少なく、住んでいる国の文化に橋渡ししてくれる人も多くないからです。 2017年にフランスで製作され、日本でも2019年に公開された映画「12か月の未来図」(オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督)はそのことをよく表しています。

また「移民第二世代」は親の母語や母文化に精通していません。親が現地の言語を十分に使いこなせない場合、家庭で親とかわす言葉は親の母語になりますが、それは子どもにとっては使いやすい言語ではありません。 親子のコミュニケーションが難しいだけでなく、文化やアイデンティティをめぐって親子のギャップが生まれてしまいます。

そこで、カナダやアメリカ、ヨーロッパのほか、移民を多く受け入れている地域では、移民第二世代以降に対する「継承語教育」(Heritage Language Education)が行われるようになりました。 「継承語教育」とは、親の母語を、その子どもが継承することからこう呼ばれています。 ここでは、家族とのコミュニケーションの質を高めると同時に、親の文化に対する認識を深め、子世代が自らのルーツに誇りをもつことが目指されています。

継承語教育を研究している中島和子氏(トロント大学名誉教授)は、「子どもが継承語を失うときみんなが何かを失う。親と子は心置きなく話し合うことばを失ってその絆が断たれ、コミュニティは共有文化を失い、国は他国、他文化との橋渡しとなる人的資源を失う」(Au, T. K. 2008:337)という言葉を紹介しています。

2019年6月に公布・施行された「日本語教育推進法」の第3条7にも「日本語教育の推進は、我が国に居住する幼児期及び学齢期にある外国人等の家庭における教育等において使用される言語の重要性に配慮して行わなければならない」ことが明記されており、今後の日本においても、継承語教育の重要性が増していくことは間違いないだろうと思われます。