NITSニュース第104号 令和元年10月4日
やっぱりお金は大事、「財務マネジメント」
日本大学 教授 末冨芳
お金が苦手な管理職のみなさんは、はじめての「財務マネジメント」研修に、びっくりされたかもしれません。 しかし、研修を通じて「財務マネジメント」と聞いただけで逃げ出したくなる気持ちが、少しでも前向きになってくださったらうれしいです。
教員出身の管理職のみなさんには以下の3つのことをまず「宿題」として、意識してくださると、「財務マネジメント」と「カリキュラムマネジメント」のつながりが見えてくると思います。
- まずは教育活動(各教科・総合的な学習の時間・部活動・特色ある教育活動)や主要分掌(生徒指導・進路指導)の公費と私費を把握すること
- 年間の行事や特色ある教育活動と、学校の「サイフ」(予算の出所)との対応関係とを把握すること
- そのために、学校事務職員(高校事務室)の情報や専門性にもとづく知見を共有するために、管理職や学校事務職員の間の協働と分散型リーダーシップを意識すること
とくに管理職のみなさんは、学校事務職員の方々の専門性や知見をどのように「引き出すか」を意識していただけると幸いです。 学校事務職員は控えめな方も多いですが、教育活動にかかっている金額や、どの「サイフ」からどの活動を賄っているかは、校内の誰よりもよく見通す専門性を持っている方々です(ごくまれに校長・副校長がそれぞれ別の「サイフ」を握る学校もありますが、学校事務職員に情報を一元化していく仕組みを作ると管理職のみなさんは学校全体のマネジメントやカリキュラムマネジメントに力を注ぎやすくなりますよ)。
そのうえで、子どもたちのための教育費をとくに地方自治体にきちんと投入してもらうように「何にいくら必要なのか?」を明確にしていく努力も、重要です。 予算を増額してもらうためには、校長・副校長と学校事務職員や保護者・PTAの団体ネットワークで協働しながら、教育委員会や首長部局に丁寧に意見を届け、交渉するプロセスも重要です。
日本の公教育投資はついにGDP比3%を下回り先進国最下位という不名誉な地位を不動のものにしています。 世界でもっとも子ども・若者を軽視する国で、子どもたちは幸せになるでしょうか? 教員の成り手不足や、教員の増員なき働き方改革など、大人がまったく幸せではない学校で大丈夫でしょうか?
内閣府・子どもの貧困対策に関する有識者会議では、学校で安心してすごせること、悩みを教職員に相談できること、学力を支える意欲をはぐくむことが協調されています(内閣府「今後の子供の貧困対策の在り方について」p.5)。 困難な状況にある子どもたちが、安心して過ごせる学校、意欲をはぐくむ学校、であるためには大人も安心して過ごせ、意欲をはぐくめる学校であらねばなりません。 与えられた予算を効果的に使うだけでなく、そもそも教育や学校に予算投入しなくては、政府や社会から期待される学校教育の質の向上をはかれなくなっている段階にまで、学校の資金不足や教員不足が至っているという認識を持ち、スクールリーダーたちが、予算増額・教員増員という大きな意味での「財務マネジメント」の改善を促進するために、行動すべき段階に至っています。
財務マネジメントに関連しては、保護者の教育費負担を軽減するための制度、とくにいわゆる高校無償化(高校修学支援制度)、いわゆる大学無償化(高等教育の修学支援新制度)の制度のわかりづらさが指摘されています。制度名称もまぎらわしいです(私のせいではありませんが)。 教員とも修学支援制度を学んでいますが、わかりづらく困っていますとの参加者のお声もありました。残念ながら文部科学省の説明もわかりやすいものではありません。 私が知りうる限り、子ども若者の教育費支援制度について、シングルマザーの当事者団体さんが毎年まとめられている『教育費サポートブック』がもっともわかりやすいです。 ふたり親低所得世帯でも利用可能な制度も多いので、下記のリンクを確認されてぜひ活用してください。小学校入学前から大学進学や就職にも対応しています。当たり前ですが校内研修や担当者勉強会等の場合でもちゃんと出典を明記してくださいね。
お金や、困窮状態の子ども・若者支援でお困りのことがあれば、いつでもお問合せください。ともに子ども・若者の成長を支えましょう。
- 『教育費サポートブック』2019年9月25日発行 (PDF:2.27MB)しんぐるまざあず・ふぉーらむ