NITSニュース第102号 令和元年9月20日

健康教育でこそ目指したい「社会に開かれた教育課程」と「カリキュラム・マネジメント」の実現-よりよい健康教育を通じてよりよい社会を創ろう-

愛知県立瀬戸高等学校 校長 丸山洋生

令和元年度健康教育指導者養成研修に参加された皆さん、大変お疲れ様でした。 全国の素晴らしい仲間と出会い、多くのヒントや気付きを得て、新たな意欲をおみやげに帰路に着かれたことと拝察いたします。 本コラムをお借りして、講堂横に掲示されていた「すごい奴のほとんどが、つくばに来ていた。」というメッセージとともに、健康教育に情熱を傾ける同志へエールを送りたいと思います。

本研修は、「日々の教育活動、学校の資源を一体的にマネジメントした健康教育推進のための方策」を学ぶことを目的の一つとしています。 これは、学習指導要領総則で示されている「保健に関する指導を、児童生徒の発達段階を考慮して、学校の教育活動全体を通して行う」ことを具体化し、関連各教科等の特質に応じて適切に実施するための知識と技能を身に付けていただくことをねらいとしています。

さて、今次の学習指導要領改訂のキーワードの一つに、「社会に開かれた教育課程」があります。 学校教育が社会の変化を柔軟に受け止めていくことの重要性を表す概念であり、中教審答申 1)では、①社会や世界の状況を視野に、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標をもち、教育課程を介して社会と共有すること、②これからの社会を創り出す子供たちに求められる資質・能力を教育課程において明確化し、育んでいくこと、③地域の人的・物的資源を活用するなど、学校教育を学校内に閉じず、目標を社会と共有・連携しながら実現させること、の三つが提言されています。

この「社会に開かれた教育課程」の実現は、健康課題を認識し、科学的に思考・判断して、適切に対処できる資質や能力を育むとともに、生涯にわたって積極的に健康を保持増進し、安全に生活することができるようにすることを目指す健康教育において、とりわけ重要な意味をもちます。 性や薬物等に関する情報の入手が容易になったり、肥満や生活習慣病、食物アレルギー等の健康課題を引き起こす食習慣の乱れが見られたりするなどの子供たちの現状や、二人に一人が一生のうちにがんに罹患したり、精神疾患の患者数が増加したりしている社会状況を踏まえ、「一次予防」として健康リスクを回避するためにはどのような資質・能力が必要なのか、「二次予防」「三次予防」のためにはどのような対処の仕方や社会の仕組みがあり、実生活の改善に向けてどう活用すべきかなどを手がかりとして、健康教育の学習内容(何を学ぶか)や学習方法(どのように学ぶか)には、社会の動向に対応した不断のアップデートが求められています。

一方で、健康教育が伝統的に重要視してきた関係機関や専門職との連携・協働、例えば警察や学校薬剤師との連携による薬物乱用防止教室、学校医・学校歯科医との連携による各種健康教室、消防との連携による防災教室、養護教諭・栄養教諭や学校歯科医との連携による食育教室などは、現実の社会や多様な人々とのつながりを保ちながら学ぶという観点から「社会に開かれた教育課程」の先駆的な取組であると捉えることができます。 私たちは「社会に開かれた教育課程」のパイオニアたる自覚と自負のもとに、三つの提言の具体化に向けて今後一層の充実・改善を図っていく必要があります。

さらに、今次改訂のもう一つのキーワードである「カリキュラム・マネジメント」については、「各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、教科等横断的な視点で組織的に配列していくこと」、「教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること」、「教育内容と人的・物的資源等を、地域等の外部資源を含めて効果的に組み合わせること」の三つの側面を包含する概念であることが示されています。 2)

本研修では、講義・演習1の① 保健教育の在り方部会において、健康課題には様々な視点からのアプローチが可能であるとの理解に基づき、「心の健康」、「医薬品・喫煙・飲酒・薬物乱用」、「現代的な疾病の予防」について、各教科等の目標、内容、見方・考え方に照らして有効な学習過程、指導方法を検討し、班別演習で授業プランを組み立て、互いに発表することを通して成果と課題の共有を図りました。 検討の過程で浮かび上がった課題意識の一つに、「「特別の教科 道徳」における健康教育の可能性」がありました。

私自身、四つの視点に分類された「節度、節制」、「生命の尊さ」、「感動、畏敬の念」、「よりよく生きる喜び」などの内容項目には、健康教育のニューフロンティアとして、現代的な健康課題を考える上での学習過程の多様性、課題解決に寄与する潜在力を強く感じています。 今後、「NITSニュース」を御覧の皆さんから実践事例、成果と課題等をお寄せいただければ幸甚に存じます。

工夫され、子供の心を揺さぶる優れた健康教育は、生涯にわたって健康を保持増進するために必要な資質・能力の三つの柱をバランスよく育て、QOLの向上や健康寿命の延伸となって結実し、よりよい社会を創ることに貢献します。 健康教育でこそ目指したい「社会に開かれた教育課程」と「カリキュラム・マネジメント」の実現に向けて、本研修が皆さんの今後の御活躍の一助となることを心から祈念して、拙稿を結びます。