NITSニュース第101号 令和元年9月13日

学校安全~学校における安全管理の考え方と進め方~

大阪教育大学 教授 藤田大輔

わが国の学校では、全教職員が参加して、学校保健安全法施行規則第28条に示された各学期1回の規定を超えて、毎月1回の頻度で安全点検を実施している学校が多いと聞いています。 ところが、毎月1回の安全点検では、実施する者に、どうしても「安全のためにする点検」と、付加的・負担的な業務として意識されてしまい、その上で、それぞれの学校で事故や災害が発生しない状況が続くと、安全点検が軽視され敬遠され、「まさかうちの学校では…」という学校事故の発生の危険性を他所事としてとらえ、加えて「見たつもり、確認したつもり」という表層的な点検になってしまうことが危惧されています。

平成28年3月末に文部科学省から公表された「学校事故対応に関する指針」においても、「学校は、全国の学校等で発生した重大事故の情報を収集するとともに、校内で発生したヒヤリハット事例についても教職員間で共有し、重大事故が発生する前に対策を講じる」ことが求められています。

「災害は忘れられたころにやって来る」と言われるように、事故災害が他所事としてとらえられ、安全点検が軽視され形骸化されることで、学校における事故や災害の発生危険性が高まってくるのであろうと考えられます。 教職員一人ひとりが「かけがえのない子どもたちの安全を担っている」という意識をもって、わが国で過去に発生した学校事故災害の事例や教訓なども教職員間で共有し、「もしかするとうちの学校でも…」というような「わが事」としてとらえる想像力を膨らませ、もしもの時の緊急対応も想定しながら安全点検を進めていただきたいと思っています。

さらにこのような教職員の安全点検の眼を養うとともに、児童生徒の安全点検に対する眼や、保護者の安全点検に対する眼との協働を通じて、学校における安全点検の実効性を上げることが可能であると思われます。 例えば、子どもたちの「地域安全マップ」の活動を「校内安全マップ」に置き換えて、児童生徒と教職員が一緒に校内の安全点検をしてはいかがでしょうか。

先に述べた「学校事故対応に関する指針」の中にも、「安全点検の実施に当たっては、児童生徒等の意見も聴き入れ、児童生徒等の視点で危ないと思っている箇所についても点検を行うことも重要である」と述べられているように、子どもたちが日ごろ感じている校内での危険な場所に対する教職員の気づきを促すことで、校内におけるより実効性の高い安全点検が可能になると期待されます。

特に小学校であれば、児童と教職員の身長が違うため、当然のことながら教職員の目線の高さと児童の目線の高さには違いがあります。 そのため廊下に付けられているフックの位置は教職員では胸の高さであっても、小学校低学年児童ではまさに目の前にあって危険を感じているかもしれません。 児童生徒に学校の安全点検に参加してもらうことを通じて、子どもたち自身が学校内の安全点検に参加しているという主体的な安全意識が醸成され、児童生徒における積極的な安全点検の実践と継続の契機となる可能性が期待されるところです。 加えて「校内安全マップ」の考え方として、児童生徒が学校内の危険に気づいた後、「なぜこの場所が危険なのか」、「どうすれば安全になるのか」について考えさせることで、児童生徒を、将来につながる安全推進の担い手として育むことを目的とした協働型の安全教育の有効な教材としても活用できるものと期待されるところです。

さらに保護者にも校内安全点検活動への参加を求めることで、あまり学校へ来る機会がない保護者ならではの校内の危険に関する気づきを教職員と共有することが可能となります。 たしかに保護者に学校内の安全点検に参加してもらうことには躊躇を感じられる場合があるかと思われますが、既に保護者協働で安全点検を実践している学校では、安全点検に対する教職員の眼を充実させる効果とともに、保護者の学校における安全推進の取り組みに対する理解と参加、さらには学校への信頼が高められたという効果のあったことが報告されています。 教職員のみでなく、児童生徒や保護者が一緒になって安全点検に参加する体制を構築することで、児童生徒や保護者も、自分たちも学校の安全に関わっている、だから学校の安全に一緒に責任をもって取り組んでいこうというような主体的かつ協働的な学校安全の推進につながる意欲の醸成につながるものと期待されるところです。

学校における施設設備は必ず、そして日々老朽化していくものです。 学校環境の安全確保のためには、表面的で独善的な点検活動にならないよう、教職員のみならず児童生徒や保護者を含めて、日ごろから学校の安全に対する意識を高めておく必要があります。 そして学校の教職員による日常の安全点検に関わる真剣で丁寧な姿を児童・生徒や保護者と共有することを通じて、学校の安全は、教職員のみならず児童・生徒や保護者、さらには地域の関係者の参加と協働によって創り出されていくという、相互信頼に基づく安全・安心の育成を目指した活動へと発展させていただきたいと期待しております。