NITSニュース第100号 令和元年9月6日

学校の組織的教育力の向上とチーム学習

国士舘大学 教授 北神正行

現在、学校は多様化・複雑化した教育問題への対応が求められる一方で、その対応に当たる教員は大量退職・大量採用の時代の中で、20代、30代前半の若手教員が半数を超える学校も存在するような状況が生まれています。 それは、学校の組織的教育力が相対的には低下するという状況にあるということです。 こうした状況に対応し、学校に期待される教育の質を確実に保証していくためには、個人の成長を図ることはもちろんですが、チームや組織として対応してくマネジメントが必要となります。 その点について、学校組織マネジメントの3つの視点の「つなぐ」という観点から、「チーム学習」の考え方・進め方について考えてみましょう。

学校教育の質は、子どもたちの教育を直接担う教員の教育実践という行動によって規定されています。 子どもたちがどんな力を身に付けることができるかは、教員がどのような授業を行うかにかかっているということです。 では、教育実践という具体的な行動はというと、どのような授業を行うかに関する教員自身の思考や判断によって規定されています そして、その思考や判断の質は、教員個人の学びや経験だけでなく、学校内の教員集団の良好な人間関係や相互の学び合いといった教員同士の関係性の在り方によって強く規定されています。

このことは、教員同士の関係性(関係の質)が良くなれば、教員個人の「思考・判断の質」が良くなり、「行動の質」が良くなる。 「行動の質」が良くなると「結果(成果)の質」が良くなる。 そして、「結果(成果)の質」が良くなるとさらに「関係の質」が良くなるということを意味しています。

つまり、学校教育の質は、教員同士の関係の質→思考・判断の質→行動の質→成果(結果)の質という循環サイクルで高まるという性質をもっているのであり、この循環サイクルを稼働させる仕組みを学校内に創り出すことが必要だということになります。 その鍵を握っているのがチーム活動であり、そこで行われる「チーム学習」という方法・形態ということになります。

学校組織の特徴として、教員は学校という一つの大きなチームに所属すると同時に、その中で学年や教科、各種委員会等の分化した複数のチームやグループに横断的に所属しているという実態があります。 しかも、学校教育の成果は、個々のチームがそれぞれ独自に達成した成果の総和というよりは、重層的に構成されたチーム間の連携と協働によって総合的に達成されるという性質をもっています。 こうした点を踏まえれば、学校の組織的教育力を向上させていくためには、学校に存在するさまざまなチームの在り方について、教員同士の関係の質、思考・判断の質、行動の質の転換を図る場として位置づけ、学校を協働する組織に創り変えていく原動力として位置づけていくことが必要になるといえます。

同僚から学ぶ、チームで学ぶことの重要性は、現代の組織では学習の単位は個人ではなく、チームであるという考え方に基づいています。 チームが学習することによって、組織をめぐる課題や問題に関する学習が行われ、チームに所属する個々のメンバーの力量が向上し、ひいては組織全体の力が向上していくのです。 こうしたチーム学習という考え方を学校という場に導入することによって、個々の教員の知識・技能・経験を他の教員も共有することが可能となり、個人の成長と組織の成長が同時的に実現できることになります。 それによって、教員構成の変化に伴う学校の組織的教育力の相対的低下という問題にも対応できることになります。

同時に、個業型組織といわれる学校の組織特性上の課題も解決することができることになります。 教員の力量向上において、本人の向上心や研究意欲が重要であることはもちろんではありますが、職場における先輩・同僚との人間関係や学び合う雰囲気などが重要な要素であることは以前から指摘されてきた点でもあります。

改めて、こうした職場環境のもつ意味と意義を確認しながら、その中で教員同士の学び合い、刺激し合う関係を再構築し、その結果として教育活動の成果が上がり、学校教育の質保証につながる仕組みを創り出していくことが学校に期待されている取り組みだといえます。 それが、「教員は学校で育つ」という考え方を具体化する方策の一つであり、そうした取り組みを促進する役割が、本研修に参加された先生方に期待されているといえます。 是非、その成果をNITS大賞への応募という形で具現化してほしいものです。