アクティブ・ラーニング授業実践事例
学校名:静岡県立韮山高等学校
系統地理的に学んだ内容を未来と結びつけて考察する力を養いたい
- 興味や関心を高める
- 多様な情報を収集する
- 思考して問い続ける
実践の背景
- 実践校は、平成25年に創立140周年を迎えた地域の伝統校です。普通科と理数科を有し、卒業後は大学に進学する生徒がほとんどです。
- 「自ら思考し、自ら実践する」をモットーとし、できる限り生徒の自主的、自発的活動に委ねています。
- 充実した理科教育の伝統に加え、全職員で新しい学力観を意識した授業改善を実施しています。
- インターンシップで地域に出た際に、その場で適切な質問や受答えをしたり、思いを態度で示したりすることに課題を感じる場面もあったことから、今まで以上に教科の学びとキャリア教育等での学びをつなぎ、「『合格』ではなく『その先で何をするか』を目標に」というテーマに沿って「『地元』で『幸せに』生きる」ためにはといったことを生徒が考えることができるような授業を目指し、改善に取り組んでいます。
授業改善のアプローチ
- 「私は誰?」(ネイチャーゲーム)という活動を取り入れることで、他者と協力して楽しみながら、地理の語句について再確認し、次に行う語句と語句を関連付ける活動のレディネスを整える。
- 「2030年、石油の価格は今よりも値上がりしているか、それとも値下がりしているか、理由も含めて記述しよう」というように、学習内容と未来、自己をつなぎ、言葉で説明する必然性のある問いを設定する。
- 他の単元でも、上述の問いを同様に設定し、繰り返し考える機会を設けることで、地理の学習内容と自分や未来を結び付けて考察する力を養う。
- 文章作成スキルのルーブリックを示したり、モデル文共有時の視点を示したりすることで、文章の記述や評価の支援をする。
- 時間と場所の制約を無くして学びに向うことができるように、ICTを活用する。
単元づくりのポイント
目標
- 資源・エネルギー問題に関する諸事象の分布や動向などに関する考察を基に、資源・エネルギー問題に対する関心と課題意識を高め、それを意欲的に追究し、捉えようとしている。
【関心・意欲・態度】 - 資源・エネルギー問題について、多面的・多角的に考察し、その過程や結果を適切に表現している。
【思考・判断・表現】 - 適切に選択した情報を基に、資源・エネルギー問題について読み取ったりまとめたりしている。
【資料活用の技能】 - 資源・エネルギー問題について理解し、その知識を身に付けている。
【知識・理解】
展開
全6時間
第1次 資源・エネルギー問題について、概要を知る。(4時間)
- 現代世界の資源・エネルギー問題
- さまざまな資源・エネルギー問題
- 日本の資源・エネルギー問題
第2次 「2030年、石油の価格や社会はどうなっているか」について考察し、考察した内容をまとめる。(2時間)[本時1/2]
「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善
本時のねらい
・次時で「2030年、石油の価格は今よりも値上がりしているか、それとも値下がりしているか、理由も含めて記述しよう」という答えの定まっていないオープンクエスチョンに挑戦できるように、既習内容を活用して、担当する項目について140字でまとめることができる。
※ 担当項目:エネルギーの利用と分布、
鉱山資源の分布と現状、
現代世界の資源・エネルギーの偏在と格差の問題、
エネルギー資源の持続可能性の問題、日本のエネルギーと鉱山資源
授業場面より
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① 見通しを持つ
「皆が社会で活躍している2030年はどのようにどうなってるだろう?」冒頭で、教師が生徒に問いかけます。さらに、SDGs(国連サミットで採択された、2016~30年に取り組み、達成を目指す持続可能な開発目標)に触れ、「エネルギー」の項目があることを示します。そうすることで、生徒は、第1次で学んだ内容と現在及び将来の自分とのつながりを意識し始めました。教師と共に確認し、これからの2時間で達成するゴールと学習の流れをイメージできた生徒は、学習課題に向き合っていきます。
「地理用語に”変身”して旅に出て、旅で出会った人にYES or NOの質問をしながら、自分自身が何者かを明らかにする」ゲームの準備を始めます。生徒は、自分では見えないように「非金属」「西アジア産油国」など資源・エネルギー問題に関する語句が一つ記されたカードを背中にかけてもらいます。「何?」「文章作る気満々の単語!」・・・生徒は、活動が始まる前から、お互いのカードをのぞき込み、印象を述べあっていました。自然と資源・エネルギー問題に関する語句について意識が向かっていました。
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② 語句の意味を確認する
生徒は、地理用語を特定するヒントを記録するためにメモの準備をし、いつでも確認できるように教科書を持ちつつ相手を見つけて質問をしていきます。背中のカードを見てもらったところ、「難しい」とつぶやかれ不安に感じた生徒は、「カタカナ?」など簡単であたりをつけやすい質問から入り、次第に、「物質の名称?」「採掘方法は〇〇?」など特定しやすくなる質問をしていました。語句を特定するためには、適切な質問ができるかがポイントとなります。多くの生徒は、質問に答えてもらっても語句を特定できなかった場合は、教科書を繰り返し読み返し、次の質問を考えていました。また、質問を受けた側も、YES or NOだけでなく、相手が語句を特定できるようなヒントも伝えようと、教科書を読み返したり、周りの人と相談したりしながら、語句について考えを巡らせていました。このようにして、情報を収集し、語句を特定していく活動を通して、資源・エネルギーに関する語句の理解を一層進めることができました。また、特定できた生徒から、五つの設定項目の該当する場所にカードを貼りに行きます。そうすることで、次の関連付けの活動でどのようなテーマについて考えるのか把握できました。
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③ 語句を関連付ける
生徒は、「本時のねらい」に示した五つの「担当項目」に別れ、担当項目毎に語句を関連付けていきます。マグネット式の語句カードにしているため、生徒は試行錯誤しながら意見交換をすることができます。また、教師は、語句と語句をつなげやすいように、「偏る」「高騰」など教科書中で頻度の高い言葉を示し参考にするように促します。「現代世界の資源・エネルギーの偏在と格差の問題」を担当するグループでは、まず、「資源カルテル」に注目して意見交換が行われました。「例えばOPECのような・・・」「自分も(資源カルテルを)調べたらOPECが出てきた」などの発言を受け、「資源カルテル」と「OPEC」のカードを隣り合わせに移動させました。「目的は?」「価格を維持し、高騰を防ぐため・・・」とさらに考察していきます。しかし、関連付けが難しい語句もあり悩む生徒もいました。その時、教師が「中東戦争と資源ナショナリズムの理解がポイント」とアドバイスするとともに、「このテーマは難しい、だけどここが分かると全体像が見えてくる、勉強しがいのあるテーマだよ」と励まします。生徒は、アドバイスを参考にしながら、資源ナショナリズムについて調べ直したり、まだ話題にしていない語句の検討に入ったりして、関連付けを進めていきました。
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④ 担当項目について文章でまとめる
記述に入る前に、教師は140文字以内でまとめることを改めて伝えるとともに「問題が要求している事柄を理解しているか」「用語や資料を正確に構造化・整理・調整・統合できているか」「指定された条件の中で工夫し正確で分かりやすく説得力ある文章になっているか」といった評価項目と基準などを示します。記述の最中に「今159文字、あと19文字」とつぶやく生徒がいました。語句と語句のつながりや表現方法を意識しながら、記述内容を精査していく姿が見られました。「西アジアはメジャーに石油の利益をとられていたのに対抗して資源ナショナリズムの動きが高まり資源カルテルであるOPECを結成し・・・」といった記述をする生徒がいました。関連付けをする際にグループで協議した内容を再度検討しながら記述内容を決定し、表現していくことができていました。
記述を作成できた生徒から、確認したい時にいつでも他者の記述を確認し比較できるように、各自の記述はクラウド上にデータを保存していきます。次時では、他グループのメンバーと意見交換をしながら他項目の内容と統合して、「2030年にどうなっているか」という問いに対して、自身の考えをまとめていきます。
報告者:研修協力員 山本