NITSニュース第112号 令和元年11月29日

部活動のような校内研修を

岡山大学教師教育開発センター 教授 髙旗浩志

研究授業の指導案を拝読することが多くあります。お願いして事前に送って頂くのです。教科書の該当頁を教えて頂き、実際に用いるワークシート等も送って頂きます。 校内での再検討に間に合うよう、及ばずながらコメントを付してお返しします。「外部講師を共犯者にしてほしい」といつもお願いしています。

考え抜かれた指導案に共通する要素があります。単元観、子供観、指導観に絞ると次のとおりです。 単元観では、①学習指導要領解説に基づき、当該単元・教材を通して身につけさせたい資質能力をおさえている、②その単元・教材の系統性(下学年の既習事項は何か、また今後、どのような学習の基礎になるのか)を、校種を跨いでおさえている、③その単元・教材の学習指導上の難しさについて、当該の教科教育研究での定説をおさえ、自らの教材研究に基づいて整理しています。

子供観(児童観・生徒観)には「ウチの学級は男女の仲が良く、行事や活動には積極的だが、いざ授業となると…」といった一般論は出てきません。 あくまで当該単元・教材の「学習指導」に係る学級の課題に絞って整理しているのです。 既習事項の定着状況はもとより、年度当初から留意してきた学習上の課題を、学級の実態に即しておさえています。 最も気がかりな複数の子どもについて、個別の現状と課題、そして目指す姿を整理している場合もあります。

単元観で「理想」を描き、子供観で「実態」を描けば、その間には当然「ギャップ」が生じます。このギャップを埋める手立てを紡ぐ場所が指導観です。 受け持ちの子どもたちに必要な学習指導のアプローチを具体的に描くこと、これはすなわち授業者の研究仮説や提案でもあるのです。

例えば「いままで私の授業では、この単元・教材は一斉指導で済ませてきた。しかし、このたびの研究授業ではジグソー学習に挑戦してみたい。その理由は…」といった具合です。

研究授業と研究協議会は、共有した提案性や研究仮説の実効性を授業に即して検証し吟味する場です。 授業者の授業技術や力量を品評する場ではありません。同僚の誰もが研究授業に責任を負うのです。研究授業における主役は授業者ではなく、周囲の同僚なのです。事前に観察の視点や観察対象となる子どもを分担して授業に臨みます。 後の研究協議では、各自が観察し記録した事実に基づいて、その授業の研究仮説や提案性の実効性を検証します。検証した結果を授業者に還すことはもちろんですが、最終的にそれは協議に参画した全ての教師に示唆を与えるものでなければなりません。 参画型研修が有効に機能するには同僚の主体的な参画が必要であり、それは事前の指導案検討の場面から既に始まっているのです。 「いちばん熱心にメモを取っているのは、後で講評する立場にある指導主事と外部講師。肝心要の本校教員は、廊下の窓辺で腕組みしながら同僚と談笑中…」。 仮にこうした事態があるのだとすれば、それは一刻も早く乗り越えられなければなりません。授業公開者が最も得をし、かつ同僚が主役になる、部活動のような研究授業・授業協議会が必要です。

研究授業の量を重ね、研究協議の方法に工夫と試行錯誤が滲んでいる学校ほど、「子どもを変えよう」とする取り組みが、いつしか「教師自身が変わろうとすること」へと向かっています。 量の無い質はあり得ないのです。教師の「働き方改革」は研究授業の充実のために必要です。 次期学習指導要領を踏まえ、理解・思考型の学力観に根ざし、「教師が教え切る授業」から「子どもに学び取らせる授業」への転換が求められています。 「おとなしく教えられる客体」ではなく、「自ら学習する主体」を育む「学習指導の本質」を目指していきましょう。