NITSニュース第228号 令和6年1月26日

GIGAスクール構想と令和の日本型学校教育へのモチベーション 〜先生を支える仕組み作りを考える〜

信州大学 准教授 佐藤和紀

はじめに

GIGAスクール構想によって、児童生徒に1人1台の情報端末が整備され、2021年度からは、全ての小・中学校の児童生徒が情報端末を占有して活用できる体制となりました。2023年度に文部科学省が進める「リーディングDXスクール事業」では、都道府県及び政令指定都市に指定校が設置され、端末の標準仕様に含まれている汎用的なソフトウェアとクラウド環境を活用した「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を推進し、全国に好事例を展開することを目指しています。1年が経過し、その成果は確実に広まってきていることを実感します。

これまで、GIGAスクール構想による端末の整備、令和の日本型学校教育で示された個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を実現させていくために、先生方はどのようなモチベーションで取り組んできたのかについて、成果を挙げつつある自治体の先生方に心情曲線を用いて、心境の推移を描いていただいてきました。そこから分かってきたことを紹介します。

1 初期:端末が整備され、活用していく時期

この時期は端末を活用することへの戸惑い「端末の使い方を子供に教えられない」「何から手を付けたらいいか分からない」「これまで使っていたコンピュータとの違いに打ちのめされる」など、の理由でモチベーションを低下させています。

また、学習観を変えていくことへの戸惑い「授業に関するいろいろな意見や考え方があって何をしたらいいか分からない」「ICTのための授業を考えていてこれではだめだ」などが見られます。自身の立場で悩む先生もおり、研究主任、教務主任、学年主任は「私に言われても・・・立場的にできることとできないことがあると言いたいけど言えない」「やる気になっている先生を支えたいのに、学年間で揃えよう、というブレーキがかかる」などの悩みも尽きない時期です。

2 中期:端末の活用に慣れた時期

この時期は端末の活用に慣れつつも、新たな悩みとして、情報処理が追いつかないことや授業に関する悩みが生まれてきます。校務の悩みとして「端末活用が校務でも進んで確かに効率が上がっている。でも情報が多くなって処理しきれていない」というような仕事のスタイルへの戸惑いが生まれています。また、授業の悩みとして「子供に委ねても深まっていないように感じる」「端末があると楽だなと感じることが増えた、でもこれでいいのか」「端末は上手に使っているんだけど、見方・考え方が働いていない」「私は単元の見通しがあるのに、子供にそれがないことに気がついてしまった」などが挙げられています。悩みではあるものの、子供のために悩んでいる意味で、モチベーションは高いと読み取ることもできます。

一方で、管理職や主任の先生の悩みはいつも尽きません。「学校での意識の統一、共通理解が難しい」「教員間で後ろ向きな話が出て残念な気持ちになる」「挑戦しているけど保護者の理解が追いつかない」などが挙げられています。教員や子供だけではなく保護者にも地域にも、その考え方を伝えていく必要があることを実感する出来事が起きています。

3 長期:授業に葛藤する時期

中期で戸惑っていた悩みを克服しつつ、さらに挑戦しようとしている時期は、子供一人一人が学習を進めていくエピソードを中心とした悩みが生まれていることが伺えます。「子供が自立して学べるようになってきたと思う、しかしどうやったら子供自身が深い学びに向かっていけるんだろう」「1時間で授業を完結するのはやめよう、もっと単元で任せていかないといけない。でも不安で仕方がない」「上手くいかなくても子供だけでもやれるようになってきた、でも不安」などが挙げられています。不安という言葉が多く使われており、自分とも子供とも向き合って「葛藤」している姿だと言えます。

一方で、一定の成果が上がりつつある自治体や学校には視察が増えていき、「視察が増えて、業務量が一気に増えて一時的にキャパシティ飽和」と挙げる教務主任の記述も印象的です。

おわりに 悩みを克服して進んでいく先生を応援していくために

ここまで、主にモチベーションが下がっている状態を紹介しました。成果を上げつつある学校の先生方も、実に悩みながら実践しています。もちろん、様々な経緯で進んでいく地域がありますので一例に過ぎません。しかし、下がった後には必ず上がって乗り越えています。上がる時の特徴として「子供が変わったことを実感した」「他地域の学校を視察した時に、自校の先生たちはとても頑張っていることに気づかされた」「保護者から子供の学び方が変わったと連絡帳をいただいた」など、他者との関係性の中で生まれるエピソードが記述されています。

また、先生方のモチベーションを支える環境として、教育委員会や学校の調整役や伴走する有識者の存在、実践に理解ある管理職や学年主任の存在が挙げられています。学校は、時代によって新たな取り組みに挑戦し続けなければなりません。GIGAスクール構想、令和の日本型学校教育は「学校の新たな挑戦を支える仕組み」を考えるチャンスだと捉えています。