NITSニュース第224号 令和5年12月1日

インクルーシブ教育システムの充実・発展をめざして

東京学芸大学 教授 奥住秀之

令和5年3月13日、「通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への支援の在り方に関する検討会議」による報告書(以下、報告書とします)が公表されました。特別支援教育に関する校内支援体制の充実、高等学校を含めた通級による指導の充実、特別支援学校のセンター的機能の充実、インクルーシブな学校運営モデルの創設、の4点が整理されています。インクルーシブ教育システムを充実・発展させるための大切な視点です。詳しい内容は報告書をご一読いただくとして、本稿ではその内容と関連させて私見を3点まとめたいと思います。(なお、「中等教育資料」2023年10月号がお手元にあれば、そこに掲載されている拙論に類似する内容がまとめられていますので、参考にしてください。)

第一に、特別支援教育の第一歩は、特別の教育の場ではなく、小学校等の通常の学級ということが改めて明確にされました。通常の学級なのだから特別の支援をしないということではなくて、複数の水準で支援を考えることの必要性が指摘されています。例えば、学級(学習集団)全体に向けたわかりやすい授業づくりの水準、集団の中で個別的な配慮を工夫する水準、特別支援教育支援員等の支援スタッフと連携した支援の水準、通級による指導と連携した専門的な支援の水準などです。このような階層的な多水準の支援について、担任教師一人だけではなく、校内委員会を中心として全校的課題として検討することの必要性が強調されています。

第二に、先ほど述べた通り、通級による指導は、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対する専門的な支援の一つに位置付けられ、小学校から高等学校までのすべての学校段階で実施が可能となっています。他校に設置された通級指導教室で指導を受ける他校通級も認められていますが、今後は、児童生徒の負担の少ない自校通級を拡充する必要性が示されています。自校通級には、こうした利点のほか、在籍学級の担任教師と通級指導の担当教師が連携しやすいという長所もあるでしょう。通級指導の担当教師が在籍学級での生活や学習の様子を行動観察したり、校内全体を視野に入れた支援システムを考えたりすることも可能となります。

第三に、報告書では、特別支援学校のセンター的機能の更なる充実が指摘されています。センター的機能は、学校教育法上は、特別支援学校が小学校等の要請に応じて必要な助言又は援助を行うことと位置付けられています。しかし、特別支援学校と小学校等はもはや単純な「別の」学校ではなく、「連続する多様な学びの場」を構成する同一システムにある学校とみなせるでしょう。とすれば、その支援は特別支援学校から小学校等への一方向的なものではなく、障害のある児童生徒を中心にした協働的支援とみなせるのではないでしょうか。特別支援学校のセンター的機能はインクルーシブな学校づくりを進めるうえで、ますますその役割が期待されているのです。