NITSニュース第220号 令和5年9月22日

組織マネジメント手法から業務改善を考える

兵庫教育大学大学院 特任教授 浅野良一

はじめに

業務の適正化(業務改善)とは、組織マネジメントの観点でいえば、業務の生産性を上げることを意味します。業務の生産性が高いとは、業務に投入する諸資源(人・モノ・金・時間等)に対して、その業務が生み出す成果が高いことを指しており、業務の生産性は、分母に業務に投入する諸資源(インプット)を、分子に業務が生み出す成果(アウトプット)で表されます。つまり、業務の生産性向上とは、「Doing the right things」「Doing things right」であり、適切なことを適切な方法で行うことです。
そこで、業務改善のためによく活用される組織マネジメントの3つの手法を紹介します。

1.VE手法

バリュー・エンジニアリング(Value Engineering)とは、商品やサービスなどの価値(製造・提供コストあたりの機能・性能・満足度など)を最大にしようという体系的手法で、英語の頭文字をとってVEと表現されています。
行政(政府、地方自治体など)における業務改善や各種の事業仕分けに用いられ、誰のため何のために行っているのか不明瞭で、肥大化してしまった事業や国民・市民にとって利得の少ない事業や不要不急な業務等のコスト削減に貢献しています。
学校現場での活用では、学校や教職員が実際に行っている仕事の過剰機能部分を廃止し、その仕事を外部や他者へ委任することが挙げられます。中央教育審議会の「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」(平成31年1月25日)では、①基本的には学校以外(地方公共団体、教育委員会、保護者、地域住民等)が担うべき業務、②学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務、③教師の業務だが、負担軽減が可能な業務、と学校や教師の業務を整理しているのは、このVE手法の活用によるものと言えます。

2.IE手法

「IE」とは、インダストリアル・エンジニアリング「Industrial Engineering」の略で、「生産工学」などと呼ばれています。「IE」は、無駄のない最善の仕事の流れを作り出すための手法であり、「生産性向上」と「コスト低減」を行うことができます。
その活動は、①顧客の求めている「品質・性能」の製品を、最も「安いコスト」で、所定の「納期」までに作るために、②「工程」「作業」「運搬」「レイアウト」「設備」「治工具」「管理手続き」等について、③「流れ」「順序」「方法」「配置」や「能率」のデータをIE手法を用いて、科学的に把握、分析し、④「能率向上の原則」、「5W2H法」(5W1HにHow Muchを加えた)によって、「ロス」や「無駄」を見つけ、「改善策」を検討し、多くの衆知を結集して「能率の維持・向上」や「改善」を目指す組織的な取組です。
学校現場での活用としては、まず「5S」による職員室での無駄な時間の削減が挙げられます。5Sとは、整理・整頓・清掃・清潔・躾のローマ字の頭文字で、単なる片付けや掃除のことではありません。5Sとは、仕事に必要なモノだけに絞り、仕事を行いやすくなるように整理・整頓することによって、職場の抱える課題を解決するための改善活動です。またこれまで、人手を使ってやっていた仕事をICT活用によって流れを改善することもIEであり、保護者からの朝の連絡を処理する各種アプリなどは、多くの学校で活用されているようです。

3.QC手法

品質管理(Quality Control)は、JISでは「品質保証行為の一部をなすもので、部品やシステムが決められた要求を満たしていることを、前もって確認するための行為」と定義されており、「顧客の要求に合った品質の品物又はサービスを経済的に作り出すための手段の体系」です。これは、不良品の発生によるその後の処理時間の無駄を防ぐことにもなります。
学校現場での活用としては、クレーム・トラブル対応などの時間の削減が挙げられます。例えば、クレーム・トラブルの発生原因を調査し、保護者からのクレームに対応するためにかかった時間や、担当教員がストレスで業務能率が落ちる原因で多かったものを突き止めて、その対策を講じるものです。

以上、業務改善に活用できる組織マネジメントの3つの手法を紹介しました。この3年間の新型コロナ感染症による影響は、学校や教員の過剰機能を見直す「VE」実践の良い機会になりました。また。それに伴う各種活動のICT化は、無駄のない最善の仕事の流れを作り出すための手法である「IE」への関心の高まりを生んでいます。先ごろ、中央教育審議会で「教師を取り巻く環境整備について緊急的に取り組むべき施策 (提言)」(令和5年8月29日)も出されましたので、こちらもご参考にされることをお勧めします。
今こそ、学校や教職員の業務改善に活用できる組織マネジメント手法の研究と実践に取り組むチャンスだと思います。