NITSニュース第212号 令和5年5月26日

カリキュラム・マネジメントは学校を変える

京都大学大学院教育学研究科 教授 西岡加名恵

いきなりですが、私にとって最も印象に残っている学校の一つを紹介しましょう。20年前に、まだ若手研究者だった私に指導・助言を依頼してくださった公立中学校です。当時、私は思考力・判断力・表現力を育成するために、パフォーマンス課題を取り入れた単元の開発と実施を提案し始めていました。

パフォーマンス課題とは、リアルな状況で知識やスキルを総合して使いこなすことを求めるような課題であり、具体的には、レポートやポスターといった作品づくりや、プレゼンテーションや実験の計画・実施・報告といった一連のプロセスの実演を求めるものとなります。講演などで「一緒にやってみませんか?」とご提案していましたが、大半の先生方は「こんなことは日本の学校では無理です」といった反応でした。ところが、「是非、うちの学校で取り組んでみたい」と当時、校長だった北原琢也先生が校内研修にお招きくださったのです。

ドキドキしながら初回の校内研修に伺うと、そこは何とも言えない雰囲気でした。北原先生はその中学校に着任2年目でしたが、先生方からは「やり手の校長先生が、今度はどうも訳の分からない研究者を連れてきた…」と思っておられる様子がありありと伝わってきました。「何だか針のむしろだな」と思いつつも、なるべく気にしないことにして、まずは基本的な考え方をお伝えする講演とワークショップを提供しました。

その後は秋の公開研究会に向けて、各教科お一人ずつの先生にパフォーマンス課題を取り入れた単元を開発していただき、授業公開に臨んでもらいました。それまでは、ごく普通の(一方的な説明中心の)授業をされていた先生方が、実際にパフォーマンス課題を実践してみると、生徒たちの学習への取り組み方が変わり、その主体的に学ぶ姿に驚いておられました。「うちの生徒たちは、実はこんなにできたんですね!」といった声を聞いたのを思い出します。

2年目の研修においては、1年目に実践してくださった先生方を中心に、各教科会が共同で単元開発に取り組みました。さらに先生方が事前にモデル作品を作ってみることで、妥当な課題になっているか、生徒たちに身に付けなくてはならない力は何かが明確になりました。公開研究会で公開される授業への関心も高まりました。

3年目は、生徒たちが生み出した作品を共同で採点し、評価基準(ルーブリック)を明確にするワークショップに取り組みました。ルーブリック作りの過程では、「うちの生徒たちは、理科で、見えない仕組みをイメージする力が弱いなぁ。今後は、全学年で、そこを重点的に指導しよう」といった具合に、指導改善に向けた話し合いが活発になされました。その頃には生徒たちもすっかりパフォーマンス課題に慣れ、思考力・判断力・表現力を伸ばしていきました。

平成29・30年改訂学習指導要領では、カリキュラム・マネジメントの重要性が強調されています。カリキュラム・マネジメントとは、「各学校が学校の教育目標をよりよく達成するために、組織としてカリキュラムを創り、動かし、変えていく、継続的かつ発展的な、課題解決の営み」です(田村知子「カリキュラムマネジメントのエッセンス」田村知子編『実践・カリキュラムマネジメント』ぎょうせい、2011年、p.2)。
カリキュラム・マネジメントは実際に学校を変えうるものなのだ、ということを教えてくださった北原先生はじめ当校の先生方に、心から感謝しています。