NITSニュース第205号 令和4年12月23日

児童生徒一人一台端末活用の今

東京学芸大学 教授 高橋純

一人一台の情報端末が教室の風景になって2年が経過しつつある。単に授業で活用すればよい段階は終わり、毎日の活用が定着し、より質の高い授業を実現するために、いかに情報端末を活用するかを追究している学校も見られるようになってきた。こうした学校では、授業が見た目にも変化し、ICT活用そのものも旧来とずいぶん印象が異なる。つまり、1)授業観、2)ICT活用観、の両者の変化が欠かせないのだと実感する。紙や黒板などの旧来の教室環境を前提とした授業から、情報端末の活用を前提とした授業に変化したと考えられる。

一般にICT活用が進むと、より本質的な目的に迫るために、旧来の手順が統合されたり省略されたりする。例えば、最近、あるファーストフード店では、新しい注文方法ができるようになった.まず座席に座り、スマホで注文すると、店員が商品を持ってきてくれる。レジに並ぶことも、後ろの列を気にしながら慌てて注文することも、その後の座席の心配もなくなった。お客様の時間を大切するといった本質的な意味からの変化といえよう。行列を少なくしようとする程度の発想がスタートでは、レジが不要になるほどの変化は生まれにくい。枠組みや構造そのものを疑うことが難しく、部分的に改善していくPDCA的な発想では困難な変化である。

こうした変化を授業に当てはめることを試みる。そもそも授業は、子供一人一人にしっかりと力をつけるためにある。学級集団の平均値が上がるのは間接的な結果にすぎない。子供一人一人が異なることもいうまでもない。したがって、授業は単線型(一斉)ではなく、一人一人に合わせた複線型が理想となる。これらを実現するために、個別最適な学びや、自由進度学習といった考え方がある。
そして、子供が生涯に渡って能動的に学び続ける力を身につけるのだと考える。つまり、子供がどのように学ぶかを教師が指示するのではなく、複線型のそれぞれで、子供自身が「学習内容」のみならず「学び方」も決めていくことが理想といえる。学習課題、学習過程、協働などを自己決定することになる。ここまでは1980年代には理論的な完成を見ていただろう。しかし、授業には多くの子供たちがいる.一人一人を授業中に随時把握したりすることが難しく、一人一人といっても、抽出した子供を指名したり、観察したりすることで精一杯な面もあった。
現在は、「情報端末+プラスクラウド」で、教師は子供一人一人の様子を、随時、手軽に把握できるようになった。子供同士もお互いの様子を常に知ることができるようになった。協働的な学びも、子供自身が情報端末で得た他者の状況から、協働する相手とタイミングを決めるようになってきた。教師が「班で話し合いなさい」と子供に協働の相手とタイミングを指示する「一斉協働」からみれば大きな変化である。子供は、情報端末を自在に使いこなし、大量の情報を適切に処理していく必要に迫られるが、こうした活動を支える基盤となる力が情報活用能力となる。

端末活用のイメージも様々な点で変わった。共有フォルダの活用といったファイルベースの考え方では、上記のような変化は起こりにくい。URLの活用といったクラウドベースの考え方に転換していく必要がある。加えて、情報端末は新しくても、制度やルールが旧来のままでは、先生方がどんなに頑張ってもこうした変化は起こりにくい。
校務や授業研究など、日頃のあらゆる業務でもGIGAスクール構想の環境を使ってみる。業務の手順が、統合されたり省略されたりする感覚を自ら体感する。授業以前に、先生方が業務でGIGA環境を使いこなして、便利さを実感することがスタートである。

情報端末が、毎日の授業に欠かせない道具になっている学校は、このように取り組んでいると思う。まだ道半ばであるが、子供自らがインプットとアプトプットを授業中に繰り返して、力をつける様子をみて手応えを感じている。理想に向けて一歩ずつ進んでいると思う。