NITSニュース第204号 令和4年12月9日

児童虐待への対応

明星大学人文学部福祉実践学科 常勤教授 川松亮

コロナ禍の下での親子関係の行き詰まり

今年9月に、2021年度の児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)が厚生労働省から公表されました。虐待相談対応件数は20万7,659件と前年度に続いて20万件を超えました。一方で、児童相談所への虐待相談を誰がしたかという経路別の件数では、2021年度はこれまでとの違いがありました。すなわち、家族親族や児童本人からの相談件数の増加率が高くなっていたのです。

この背景には、コロナ禍が続く社会状況の下で、家庭内での親子間葛藤が高まっていることが推測されます。子どもはオンライン学習等で在宅することが増える中で、保護者もテレワーク等による在宅勤務のために家庭内で子どもと過ごす時間が増え、ストレスフルな状況がお互いに高まっていることが考えられます。
実際に児童相談所で現場の話を聞くと、コロナ禍が始まって以降、子ども自身が保護を求めてくる事例や、保護者が子どもを見ることに限界を訴えて相談してくる事例が増え、そのための一時保護も増加しているそうです。コロナ禍は、親子の絆を強める可能性がある一方で、それまで家庭内に抱えていた問題がより顕在化して、親子関係が行き詰ってしまう事例が増えていることが伺えます。

子どもがほっとできる居場所での支援を

問題なのは、親子関係に行き詰まった子どもが家庭外での癒しの場を求め、それが子どもにとって適切ではない場所につながってしまうことです。家庭外に子どもが安心して過ごせる居場所が存在することで、そうした事態を避けることが可能になります。
さらには、家庭での養育環境が十分ではなく、衣食が満たされず、適切な監護を受けられていない子どもたちもまた、居場所を求めています。ほっとでき、温かい食事が取れ、そして話を聴いてもらえる場、そのような居場所につながることで救われる子どもたちは多いと思います。

そのための取り組み例の一つとして、世田谷区の取り組みを紹介します。世田谷区では昨年夏から、区の事業として中学生の夜の居場所づくりを始めました。「まいぷれいす@はなもも」と命名された居場所では、スタッフとリラックスした時間を過ごしながら、学習支援や夕食の提供、相談支援などが受けられます。料金は無料です。世田谷区内の児童養護施設が事業を受託して、施設とは離れた場所にスペースを確保して、週5日(月・水・金・土・日)16時から21時まで運営されています。
この居場所を利用する子どもは、児童相談所や区の子ども家庭相談部門から紹介されてつながっているとのことです。このように行政と民間団体の取り組みが連携することで、養育支援が必要な子どもを支えていくことが可能になるのではないでしょうか。

子どもが話を聴いてもらえる場を創る

子どもが居場所につながることで信頼できる大人と出会え、自分の話を聴いて励ましてもらえることは、子どもの自己肯定感を高めることにもつながることでしょう。自分のことを見守ってくれる大人の存在を身近に感じながら、家庭で得られない安心を得て、子どもは前向きに未来を描いていくことができるのだと思います。こうした取り組みは主に民間団体の手によって、全国各地で始められています。

地域の子どもの居場所と学校とが直接つながりあって、協働していくことがこれからは必要になってくると考えます。学校から居場所の存在を子どもに伝え、時には同行するなどして、利用を促していけるとよいのではないでしょうか。
子どもたちが安心できる居場所で、話を十分に聴いてもらいながら成長していけるように、地域全体で取り組んでいきたいものです。