NITSニュース第199号 令和4年9月30日

子どもの学びの質を高めるカリキュラム・マネジメント~学校文化としての三つの側面の定着を目指す~

明星大学教育学部 教授 吉冨芳正

これからの学校教育では、なぜカリキュラム・マネジメント(以下「カリマネ」と表記)が重要なのでしょうか?そしてこれからどう取り組めばよいのでしょうか?その答えを参加者が自ら納得して説明できるかどうかが、カリマネ研修の成否の鍵です。私が担当する研修では、カリマネの研究的な内容も扱いますが、ここでは行政的な内容を生かし、カリマネの三つの側面からその重要性とこれからの進め方について考えたいと思います。

学習指導要領に示されたカリマネの三つの側面を私の言葉で簡明にいうと、①学校の教育活動を教科等横断的な視点で計画し展開すること、②学校に存在する様々な計画についてPDCAサイクルをきちんと回すこと、③学校内外の資源を教育活動の充実にフル活用することです。

②のPDCAサイクルを循環させることの大切さは、20年程前から教育行政でも強調されてきました。PDCAサイクルは、教育課程全体や単元等の指導計画などの様々な計画についてそれぞれに適した回し方を工夫する必要があります。しかし、研修で自校の状況を分析してもらうと、評価(C)から改善点を探り(A)次の計画(P)に結びつける過程がうまくいっていないとの指摘が多く出されます。学習指導要領の趣旨を踏まえれば、特に子どもたちの主体的・対話的で深い学びの成立を目指してC右矢印A右矢印Pの過程を意識的につなげていくことが求められます。

①の教科等横断的な視点は、学習指導要領の理念に関わるキーワードです。激しい社会の変化の中で子どもたちがよりよい人生や社会を自ら創造できるようにするためには、教科等を貫いて三つの柱(知識・技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力や人間性等)で示す資質・能力を育成していくことが不可欠です。子どもたちが各教科等固有の学びに深く浸ると同時に、総合的な学習の時間などを柱としながら、教科等の学びをつなげて自分の人生、社会や世界の問題に向き合うことが求められます。

③の資源を教育活動の充実にフル活用する視点も、当たり前のことに思えますが、教職員や組織・運営、施設・設備、教材・教具などはもとより、地域の人的・物的な資源を組織的に把握・整理し、計画的に教育活動に十分生かせているとはいいがたい学校もあるようです。子どもたちの学びを教科書の中だけにとどめず、生活や社会、世界とつなぐこと、子どもたちの学びの充実を焦点として学校の組織・運営や学校外との連携を工夫することが求められます。

学習指導要領では、各学校がカリマネの三つの側面に統合的に取り組み、「教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上」に努めるよう示されています。すべての教師が、常にカリマネの三つの側面を自分たちの教育活動や経営活動の在り方をとらえる枠組みとして意識すること(見方)や、様々な要素を関連付けて課題の改善への道筋を描くこと(考え方)ができるようになれば、子どもたちの学びの質は必ず向上するのではないでしょうか。

教師がこうした「見方・考え方」を自分のものとしてカリマネに取り組むことが日常の営みとなり、学校教育の文化として継承されるようになれば、カリマネは後戻りしないところまで進化すると思います。